日本は世界的にも類を見ないほど優れた医療システムが整った先進国です。また、公的医療保険制度も充実しています。
健康保険や国民健康保険等に加入している方々なら誰でも、保険診療の場合には原則として3割を自己負担するだけで、質の高い医療を受けることができます。
このような制度が整っているなら、公的医療保険だけに加入していれば大丈夫なようにも思えます。
しかし、高額な治療を受けた場合、3割の自己負担分でも患者に重い負担となってしまうことがあります。
この高額医療費は、やはり患者自身の負担として支払う必要があるのでしょうか?
実は患者の所得に応じて1ヶ月の自己負担限度額が定められており、その1ヶ月分の自己負担限度額まで事前に医療費を抑えたり、その自己負担限度額を超えたらお金が戻ったりする制度があります。
それが「高額療養費制度」とよばれる公的な医療制度です。ただし、本制度の申請方法で困惑してしまうことがあったり、申請しても患者が受けた医療サービスによっては制度の適用外になってしまったりする場合もあることでしょう。
そこで今回は、高額医療費に活用できる高額療養費制度の申請方法を解説します。この記事を読めば、高額療養費制度の申請手順と必要書類、申請の際の注意点についてよくおわかりになることでしょう。
目次
1.我が国の公的保険について
- 1-1.日本の公的医療保険制度
- 1-2.3割自己負担だけだと医療費が高額に!
- 1-3.高額医療費に対応する公的制度がある
2.高額療養費制度について
- 2-1.高額療養費制度とは
- 2-2.70歳未満の人の自己負担限度額
- 2-3.70歳以上の人の自己負担限度額
3.高額療養費制度の申請方法・その1
- 3-1.高額医療費を事前に軽減したいなら
- 3-2.事前申請(限度額適用認定申請)の方法
- 3-3.事前申請(限度額適用認定申請)の必要書類
4.高額療養費制度の申請方法・その2
- 4-1.高額医療費を事後に申請したいなら
- 4-2.事後申請の方法
- 4-3.事後申請の必要書類
5.高額療養費制度の申請の際の注意点
- 5-1.健康保険と国民健康保険では異なる点も
- 5-2.世帯合算しなくて大丈夫?
- 5-3.高額医療費でも適用されないサービスもある
6.高額療養費制度を補完する方法について
- 6-1.高額療養費制度が利用できない高額医療費はこうする!
- 6-2.医療費控除制度を利用してみよう!
- 6-3.民間の医療保険・がん保険は頼りになる存在
7.まとめ
目次
1.我が国の公的保険について
海外をみてみると、高額な医療費が原因で手軽に医療機関を受けられない国も多い。
日本は医療の質が高い上に、医療費が非常に抑えられた国であると評判が高い。
まずは我が国の公的医療保険制度について詳しく知りたい・・・。
こちらでは、我が国の公的医療保険制度について解説します。
1-1.日本の公的医療保険制度
我が国の公的医療保険制度は「国民皆保険」と呼ばれており、次のような方々は何らかの形で公的医療保険へ加入する必要があります。
- 生活保護受給者等の一部の方々を除き、日本国内に住所を有する全国民
- 1年以上在留資格があり日本国内に居住する外国人
いわば強制的な加入となる公的医療保険制度ですが、公的医療保険には大きく分けて健康保険(被用者保険)と国民健康保険があります。これらの公的保険は加入対象者がそれぞれ異なります。
〇健康保険(被用者保険)
給与所得者およびその被扶養者が加入する公的保険です。この保険は次の3種類に分かれています。保険料は給与から差し引かれます。
- 健康保険:民間企業が所定の要件へ該当する場合に加入する公的保険です。保険者としては「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と呼ばれる公法人と、企業自らが設立する「健康保険組合」のいずれかとなります。
- 船員保険:船員として船舶所有者に使用される人を対象とした公的保険です。保険者は全国健康保険協会です。
- 共済保険:公務員および私立学校教職員を対象とした公的保険です。保険者は各共済組合となります。
〇国民健康保険
前記した健康保険の加入者以外の方々が加入する公的保険です。保険料は原則として毎月納付する必要があります。
保険者は各市区町村となります。ただし、建設・医業等では保険者が国民健康保険組合(職域国保)となっています。
なお、昨今の高齢化率の上昇に配慮し、平成20年(2008年)より高齢者を対象とした公的保険もスタートしました。それが「後期高齢者医療制度」です。
〇後期高齢者医療制度
原則として75歳以上の高齢者(後期高齢者)が対象となります。保険者は「後期高齢者医療広域連合」という都道府県区域内の全市町村の加入する広域連合が担当します。
一方、65〜74歳までの高齢者(前期高齢者)は、0〜64歳(現役世代)と同じ公的保険へ加入を継続し、保険者間にて調整が行われることになります。
1-2. 3割自己負担だけだと医療費が高額に!
前述した公的医療保険制度は原則として3割自己負担となります(後期高齢者医療制度は原則1割)。
例えば、医療費に10万円かかった場合は公的医療保険が7万円を保険者が給付し、残りの3万円を患者自身が負担することになります。
この制度により、患者は医療費のために困窮してしまうことを避けることができます。
しかし、医療機関での手術等の医療費は、時に100万円を超えてしまうことがあります。
そうなると、3割患者負担で済む場合でも30万円を支払う必要があり、貯蓄を十分に持っていない人・低所得者の人たちには重い負担となってしまいます。
しかし、この重い負担となった場合に活用する公的制度が存在します。それが「高額療養費制度」です。
1-3.高額医療費に対応する公的制度がある
高額医療費の場合には、3割自己負担でも重い金銭的負担となります。
その場合に、ご自分が利用できる公的給付制度として高額療養費制度があります。
この制度を活用すれば、ケースによっては3割自己負担を大きく下回る金銭的負担だけで済むことも期待できます。
しかし、この制度は被保険者の医療費が高額医療費に該当したからといって、保険者から自動的に多額の費用を差し引いてもらうわけではなく、ご自分で利用申請を行う必要があります。
この申請方法については第3章以降で解説していきます。
2.高額療養費制度について
3割自己負担だけではなく、このような公的制度があることは知らなかった。非常に興味がある。
では、この高額療養費制度の詳細について是非教えてもらいたい・・。
こちらでは、高額療養費制度と、この制度の公的給付の基準となる自己負担限度額について解説します。
2-1.高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、患者が1ヶ月にかかった医療費で自己負担限度額を超えて支払った場合、その差額分が戻ってくる公的な制度です。
例をあげれば、年収320万円の世帯であるなら1ヶ月57,600円が自己負担限度額となります。
つまり、1ヶ月の医療費がどんなに高額になろうと、自己負担限度額の57,600円を超えると、その分のお金が患者に戻されることになります。
高額療養費制度の対象となるのは、公的医療保険が適用される医療費となります。
この高額療養費制度の利用の際、特別な加入条件はありません。前述した公的医療保険に加入している人なら誰でも利用できます。
2-2.70歳未満の人の自己負担限度額
70歳未満の方々は次のような自己負担限度額となります。
〇所得に応じた自己負担限度額
所得に応じた区分は下表の通りです(厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ 平成30年8月診療分から」を参考に作成)。
【区分ア】 |
①年収:約1,160万円~
・健康保険:標準報酬月額(※1)83万円~ ・国民健康保険:旧ただし書き所得(※2)901万円超 ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
【区分イ】 |
①年収:約770~1,160万円
・健康保険:標準報酬月額53万円~79万円 ・国民健康保険:旧ただし書き所得600万円~901万円以下 ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
【区分ウ】 |
①年収:約370~770万円
・健康保険:標準報酬月額28万円~50万円 ・国民健康保険:旧ただし書き所得210万円~600万円以下 ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
【区分エ】 |
①年収:~約370万円
・健康保険:標準報酬月額26万円以下 ・国民健康保険:旧ただし書き所得210万円以下 ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 57,600円 |
【区分オ】 |
①年収:市区町村民税非課税
②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 35,400円 |
(※1)標準報酬月額:報酬額区分によって設定された金額です。給与等(4~6月分)の支給額平均を基準に定められます。
(※2)旧ただし書き所得:住民税賦課方式に関する条文(旧地方税法)の「ただし書き」に規定された算出方法で計算された所得です。
〇更に負担が軽減されることも(多数回該当)
多数回該当とは、1年間(直近12ヶ月間)で3回目以上、自己負担限度額(上限額)に達すると、4回目以降から更に自己負担限度額が引き下げられる制度です。下表を参考にしてください。
区分 | 本来の自己負担限度額(上限額) | 多数回該当(4回目~) |
ア | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
イ | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
ウ | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
エ | 57,600円 | 44,400円 |
オ | 35,400円 | 24,600円 |
2-3.70歳以上の人の自己負担限度額
70歳以上の方々は次のような自己負担限度額となります。
〇所得に応じた自己負担限度額
所得に応じた区分は下表の通りです(厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ 平成30年8月診療分から」を参考に作成)。
【現役並み】
現役並み(年収約1,160万円~) |
①年収:約1,160万円~
・標準報酬83万円~ ・課税所得690万円~ ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
現役並み(年収約770~1,160万円) |
①年収:約770~1,160万円
・標準報酬53万円~ ・課税所得380万円~ ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
現役並み(年収約370~770万円) |
①年収:約370~770万円
・標準報酬28万円~ ・課税所得145万円~ ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎) 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
【一般】
一般 |
①年収:156~約370万円
・標準報酬26万円以下 ・課税所得145万円未満等 ②ひと月の自己負担限度額(世帯毎):57,600円 ③ひと月の外来(個人毎):18,000円(年14万4,000円) |
【住民税非課税等】
Ⅱ住民税非課税世帯 |
①ひと月の自己負担限度額(世帯毎):24,600円
②ひと月の外来(個人毎):8,000円 |
Ⅰ住民税非課税世帯(年金収入80万円以下等) |
①ひと月の自己負担限度額(世帯毎):15,000円
②ひと月の外来(個人毎):8,000円 |
〇更に負担が軽減されることも(多数回該当)
70歳以上の方々の場合も多数回該当を利用できますが、市区町村民税非課税の人には適用されません。
区分 | 本来の自己負担限度額(上限額) | 多数回該当(4回目~) |
現役並み(年収約1,160万円~) | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
現役並み(年収約770~1,160万円) | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
現役並み(年収約370~770万円) | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
一般 | 57,600円 | 44,400円 |
3.高額療養費制度の申請方法・その1
高額医療費は所得に応じたきめ細やかな自己負担限度額(上限額)を定めており、非常にわかりやすい。
自分は家族が病気やケガをした時には、是非この制度を活用したい。高額医療費になる場合、できれば事前に1ヶ月の自己負担限度額に抑えたいものだ。
事前申請について詳細を知りたい・・。
こちらでは、事前申請(限度額適用認定申請)の方法と必要書類について説明します。
3-1.高額医療費を事前に軽減したいなら
高額医療費となってしまいそうな場合には、事前に1ヶ月の自己負担限度額に抑えることができます。その際には、「限度額適用認定申請」を行う必要があります。
申請先はご自分の加入している保険者となります。申請の際には、1ヶ月の自己負担限度額を超えるかどうかわからない場合もあります。その際でも申請は可能です。
なお、70~75歳未満の高齢者で一般の年収区分以下に該当する人なら、この申請手続きをしなくとも、医療機関窓口での支払いが自動的に自己負担限度額まで軽減されます。忘れずに高齢受給者証を医療機関窓口へ提示しましょう。
しかし、70歳以上の現役並み所得者は、平成30年8月診療分より限度額適用認定申請を行う必要があります。後期高齢者医療制度を利用する75歳以上の方々の場合も同様です。
3-2.事前申請(限度額適用認定申請)の方法
まずは、「限度額適用認定申請書」を保険者から取得することになります。
健康保険の加入者ならば、その保険者となっている全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合等から受け取ります。国民健康保険の加入者ならばお住いの市区町村窓口から取得しましょう。
また、保険者のホームページから申請書を取得することも可能です。
限度額適用認定申請の流れは次の通りです。
- 限度額適用認定申請書、その他の必要書類の収集
- 申請書に必要事項を記載
- 保険者へ限度額適用認定申請書等を提出(健康保険の場合は勤務先を通して申請を行います。)
- 限度額適用認定証の交付
限度額適用認定申請を行う前にやむを得ず入院した場合でも、当月中に限度額適用認定証を取得したなら、速やかに医療機関の窓口に提示しましょう。その月の医療費の自己負担限度額までに抑えられます。
3-3.事前申請(限度額適用認定申請)の必要書類
必要書類は次の通りです。
- 限度額適用認定申請書:保険者より取得します。
- 健康保険証:前期高齢者は高齢受給者証と共に、後期高齢者は健康保険証を返納しているので後期高齢者医療被保険者証を用意します。
- 印鑑
- 本人確認書類:マイナンバーカード・運転免許証等
なお、保険者によっては追加の書類を要求している場合があります。また、高齢者等で足腰が不自由であったり、何らかの理由で申請を行うことが困難であったりする場合は、代行者が申請してもかまいません。その際には、委任状が必要になる場合もあります。
4.高額療養費制度の申請方法・その2
いざ病気やケガをしてしまうと、医療機関での入院やら治療やらで、限度額適用認定申請までとても手が回らないこともあるだろう。
退院した後に申請する方法について詳細を知りたい・・・。
こちらでは、事後申請について解説します。
4-1.高額医療費を事後に申請したいなら
高額療養費の申請方法は、本来事後申請が原則です。申請をすれば概ね3ケ月程度で、指定口座に自己負担限度額超過分のお金が振り込まれます。
大急ぎで申請する必要はないのですが、医療機関を受診した月の翌月の1日から2年以内、または、高額療養費を利用できる旨の通知書を受け取った日から2年以内が申請期間となります。
「2年も猶予期間があるから、ずっと後で申請しても良い。」とスッカリ安心してしまい、申請をし忘れ期間を過ぎてしまうと、お金は1円も戻りませんので気を付けましょう。
4-2.事後申請の方法
まずは、「高額療養費支給申請書」を保険者から取得することになります。
こちらの場合も限度額適用認定申請書と同様に、健康保険の加入者ならば、その保険者となっている全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合等から受け取ります。国民健康保険の加入者ならばお住いの市区町村窓口から取得します。
なお、国民健康保険の加入者の場合は高額療養費を活用できる旨の通知書が送付されます。その中に高額療養費支給申請書が同封されている場合もあります。
また、保険者のホームページから申請書を取得することも可能です。
高額療養費支給申請の流れは次の通りです。
- 医療機関で必要な医療費を支払う
- 国民健康保険加入者には、高額医療費に該当すると通知書が送られてくる
- 高額療養費支給申請書、その他の必要書類の収集
- 申請書に必要事項を記載
- 保険者へ高額療養費支給申請書等を提出(健康保険の場合は勤務先を通して申請を行います。)
- 指定口座に自己負担限度額超過分のお金が振り込まれる
4-3.事後申請の必要書類
必要書類は次の通りです。
- 高額療養費支給申請書:保険者より取得します。
- 健康保険証:前期高齢者は高齢受給者証と共に、後期高齢者は健康保険証を返納しているので後期高齢者医療被保険者証を用意します。
- 印鑑
- 領収証等
- 振込口座のわかる通帳等
- 本人確認書類:マイナンバーカード・運転免許証等
なお、保険者によっては限度額適用認定申請と同様に、追加の書類を要求している場合があります。
また、高額療養費支給申請も、高齢者等で足腰が不自由であったり、何らかの理由で申請を行うことが困難であったりする場合は、代行者が申請してもかまいません。その際には、委任状が必要になる場合もあります。
5.高額療養費制度の申請の際の注意点
高額療養費制度は大きな負担軽減につながる便利な公的制度だ。この制度にも何か欠点や注意点はあるのだろうか?
あればぜひ詳細を知りたい・・・。
こちらでは、高額療養費制度を申請する際の注意点を解説します。
5-1.健康保険と国民健康保険では異なる点も
国民健康保険へ加入している方々へは、高額医療費となり高額療養費制度が利用できる旨の通知書が患者のご自宅へ送付されてきます。その指示に従い、高額療養費の支給申請手続きを進めていきましょう。
一方、健康保険組合の加入者の場合なら、医療機関等から提出された「診療報酬明細書(レセプト)」をもとに、組合が自動的に高額療養費を払い戻しするケースもあります。
ただし、健康保険の保険者の中には、高額療養費の対象となっていても送付の通知を行わず、ご自分で費用を計算して申請しなければならないケースも存在します。
その場合の計算方法は、前述した第2章を参考にしてください。高額療養費の対象となっていたことがわかったら、速やかに申請書に記入し、必要書類を揃えた上でご自身が加入している保険者の窓口へ提示しましょう。
5-2.世帯合算しなくて大丈夫?
ご自分の医療費を領収書等で確認したときに、「自分の医療費は自己負担限度額に達しなかった・・・残念。」とすぐに申請を諦めるのは早計です。
前述した第2章でも明示した通り、自己負担限度額は世帯毎にカウントされます。そのため、世帯でかかった医療費を合算することができます。
たとえ家族1人の1回分の窓口負担では自己負担限度額を超えなくても、複数の医療機関での受診や、同じ世帯にいる家族(ただし、同じ公的医療保険に加入していることが条件)の受診について、窓口でそれぞれ支払った医療費を1か月単位で合算することができます。
年収360万円の世帯を例に説明します。
(例)
- 年収:360万円
- 家族:夫55歳・妻50歳(夫妻とも国民健康保険加入者)
- 自己負担限度額(上限額):57,600円
家族 | 医療費 |
夫 | A病院:自己負担額:45,000円(医療費全額15万円) |
妻 | B病院:自己負担額:27,000円(医療費全額9万円)
C薬局:自己負担額:6,000円(医療費全額2万円) |
夫の医療費45,000円+妻の医療費(27,000円+6,000円)=78,000円
78,000円-自己負担限度額(上限額)57,600円=20,400円
自己負担限度額(上限額)の57,600円を超えた20,400円が支給されます。
5-3.高額医療費でも適用されないサービスもある
ご自分にかかる高額医療費は、いかなる種類の医療サービスでも高額療養費に該当するわけではありません。
高額療養費が適用されるのは、あくまで公的医療保険が適用される医療・薬剤等となります。
主に次のような医療サービスが適用外となります。
〇先進医療
先進医療は、厚生労働大臣の定めた施設基準に適合する医療機関が行う、最先端の技術を駆使した医療の中で、同大臣が承認した医療を指します。
しかし、先進医療は保険診療外の医療行為とされ、先進医療分に公的医療保険制度は適用されません。つまり、先進医療を受けた分は全額自己負担となります。
先進医療の治療によっては、費用が数百万円に上り高額医療費となるものもあります。
〇自由診療
自由診療は、公的な健康保険や診療報酬が適用されない診療のことです。最先端の医療技術を利用できる診療もこちらに該当します。
一見すると先進医療と同じようにも思えますが、先進医療の場合は保険診療にあたる部分なら公的医療保険の対象になるものの、この自由診療は本来保険診療になる部分すら全額自己負担となります。
そのため、非常に高額な医療費が発生する場合もあります。
〇差額ベッド代
医療機関で言われている「大部屋」の病床ならば、公的医療保険が適用され無料となります。
しかし、医療機関には有料の病室も存在し、この病室を「特別環境療養室」と呼びます。
この病室を利用する際に発生する料金が「差額ベッド代」です。こちらも全額自己負担となります。
この料金の厄介なところは、医療機関が自由に料金を設定できるため、1日の料金が10円程度の病室から数十万円に上る病室まで、非常に差がある点です。
〇入院時食事療養費
入院中の食費のことですが、こちらは1食460円分が自己負担となります。
長期の入院になると1日3食でかつ入院期間分の食費がかかるので、特に低所得者には重い負担となります。
そこで、低所得者の場合は「限度額適用認定・標準負担額減額認定証」を取得しましょう。この認定証があれば、入院中の食費を減額することができます。
食費の減額分は次の通りです。
- 住民税非課税者:1食210円
- 住民税非課税者(過去1年間の入院日数が90日を超えている場合):1食160円
- 70才以上の高齢受給者:1食100円
この認定証申請の際の必要書類は次の通りです。なお、保険者によっては追加の書類を要求する場合があります。
- 健康保険証
- 印鑑
認定証を取得して、入院する際に医療機関の窓口へ提示しましょう。
6.高額療養費制度を補完する方法について
高額療養費制度でも利用できない医療サービスがあるのは少し不安だ。
いかに日本の公的医療制度は優れているとはいえ、先進医療や自由診療を全く使わないという保証はない。
公的医療保険制度や高額療養費制度を補う方法は何かないものだろうか?
こちらでは、公的医療保険制度や高額療養費制度を補完するいろいろな方法を解説します。
6-1.高額療養費制度が利用できない高額医療費はこうする!
高額医療費の負担を軽減する方法は、公的な制度でも民間のサービスでも存在します。
ある公的な制度を活用する場合には自由診療や、医療機関へ入院治療するための交通費すら適用対象になります。
また、民間のサービスを活用すれば下りた保険金が、実際の治療費・入院費よりも多く受けとれるケースもあります。
公的なサービス・民間のサービスを上手に活用し、医療費の負担軽減のための工夫を行いましょう。
6-2.医療費控除制度を利用してみよう!
医療費控除とは、所得控除の1つであり、1年間に支払った医療費を申告すると所得税・住民税の負担が軽減される制度です。
医療費控除では、公的医療保険制度や高額療養費制度の適用外だった先進医療・自由診療や、入院・治療のため医療機関に向かった際の交通費も対象とすることができます。
この制度を利用する条件は次の通りです。
- その年の1月1日~12月31日までの間に支払った医療費が10万円を超える
- その年の総所得金額等が200万円未満の場合、総所得金額等の5%の金額を超える
この2つのいずれかに該当した人が対象となります。
この制度を利用したい場合は、必要書類を確定申告(または還付申告)の際に提出しなければなりません。必要書類は次の通りです。
- 確定申告書:国税庁のホームページまたは各税務署で取得します。
- 医療費等の領収書:実際に提出はしなくても良いですが、書類の転記に必要です。証拠として、5年間大切に保管しましょう。
- 明細書:1年間にかかった医療費の明細をまとめる書類となります。領収書・レシートの代わりにこちらを提出します。
- 源泉徴収票:申告する人が給与所得者ならば添付します。
- 本人確認書類:マイナンバーカード、運転免許証等の写しを準備します。
提出時期として、確定申告は毎年 2月16日~3月15日となります。ただし、医療費控除しか提出しないなら還付申告で行っても構いません。こちらはいつでも提出でき、提出猶予期間は5年間となります。
6-3.民間の医療保険・がん保険は頼りになる存在
生命保険会社や共済が扱う医療保険・がん保険も、公的保険を補完する頼りになるサービスです。
医療保険は病気やケガの広範囲な入院治療が保障されます。また、がん保険はがんに特化した保険で、がんにかかわる手厚い保障が約束されます。
医療保険・がん保険双方で差額ベッド代は保障対象になっており、長期の入院でも入院給付金(日額)として、お金を受け取ることができます。
入院給付金(日額)によっては、実際にかかった差額ベッド代を上回る給付金が下りることも期待され、余ったお金は生活費に充てても構いません。
先進医療は基本保障や特約で設定することができ、高額な自己負担を軽減できます。
また、自由診療を保障する商品は、とりわけがん保険で増加しています。
保険商品の中には、毎月の支払額が医療保険で1,000円台、がん保険は1,000円未満で加入できる商品も登場しています。家計にさほど負担にならない商品・プランも多く販売されています。
7.まとめ
高額医療費を軽減する高額療養費制度は、確かにありがたい制度ですが、定められた手続きや申請期限、適用対象外の医療サービスも存在します。
まずは、高額療養費制度の特徴をよく認識して、ご自分や家族の医療費の軽減へ役立てていきましょう。