生命保険や損害保険で保険料の値上げが相次いでいます。保険会社は利益を上げることが目的です。しかし、単なる利益の追求だけで値上げに踏み切るわけではありません。
保険料の値上げは、生命保険の場合は少子高齢化はもとより、医療機関で治療を受けた際の保険金支払の割合が影響します。また、国内の経済事情も反映されます。
一方、火災保険は自然災害の続発や保険金の支払割合が影響します。
保険会社には生命保険料・損害保険料を定める際の基準となるものがそれぞれ存在します。
なお、地震保険の場合は非常に特殊であり、保険料を改定する場合は全社共通で行われます。
今回は、生命保険、火災保険、地震保険の保険料の値上げの仕組みについて解説します。
この記事を読めば、保険料の値上げ・値下げに関する基本的知識と、それを踏まえた保険加入の注意点について、よくおわかりになることでしょう。
1.保険料について
私の友人から医療保険をすすめられて加入しようとしたんです。そしたら、保険料の値上げがあったそうです。
もちろん、私の加入する年齢が遅い分、保険料は高くなるのはわかるんですけどね。
何も私が加入する時になって、保険会社の都合でいきなり値上げしなくても・・・・・。
不満はごもっともです。こちらでは、保険料が一定ではない点・保険料の値上げを何で判断するか?を解説します。
1-1.保険料は一定ではない
生命保険・損害保険は保険商品が販売されてから、販売終了になるまでずっと保険料が一定というわけではありません。
以前の保険料を「改定」する形で、保険料が値上げされたり、逆に値下げされたりすることもあります。
確かに、保険へ加入する希望者にとっては不満・不公平感を抱く方々は多いはずです。
しかし、いろいろな事情で保険会社側が、値上げまたは値下げに踏み切ることもあるのです。
その事情の中には、たとえ保険会社側が改定に難色を示しても、それに従わなければならないケースもあります(地震保険:第5章参照)。
1-2.保険に加入したら値上げの心配は無いが・・・
既に加入した人の中には、「加入した後も保険の継続途中で値上げされることがあるのか?」、このような不安を持つ方々もいるかと思います。
こちらの場合はご心配なく。生命保険の場合、いったん契約を締結すれば契約終了またはご自分が解約しない限り、加入した保険料のまま保障が継続されます。当然、保障内容自体が変更されるということもありません。
そのため、バブル期に加入した保険は「お宝保険」と呼称され、現在の保険商品では考えられない利回りの高さから、不用意に解約すべきではない、と言われています。
つまり、当時の契約締結した内容・保険料が20年・30年を経た今でも有効なのです。
一方、損害保険の自動車保険のように、事故を起こし補償を利用した場合は等級が下がり、翌年保険料が上がってしまうことはあります。
1-3.保険会社は保険料の値上げを何で判断?
各保険会社は当然のことながら保険料の上げ下げを検討する際、参考にする指標があります。
生命保険の場合なら「予定利率」、損害保険の場合なら「参考純率」となります。
ただし、各保険会社がこの指標ばかりを参考にするわけではありません。
また、指標はあくまで参考であるため、他社が値上げしている中、自社だけ値下げしても法律等に反するわけでもありません。
地震保険を除き、最終的に保険料の値上げ・値下げを決断するのは保険会社次第なのです。
2.生命保険料の値上げについて・その1
生命保険会社が保険料を改定する際の参考にしているのは、「予定利率」という物差しですか。
この予定利率について詳細を知りたいです・・・。
第2章では、予定利率とは何か?保険料の改定に影響する社会的な背景等も解説します。
2-1.生命保険料が改定されるのは4月
生命保険会社の販売する商品である死亡保険、医療保険、がん保険、学資保険、養老保険等の保険料が改定されるのは、基本的に4月です。
つまり、だいたい3月中なら以前に改定された保険料で、保険契約を締結することになります。
当然、前述した保険商品の生命保険料は、毎年値上げされるわけではなく、保険料自体が昨年と変わらなかったり、値下げされたりする商品もあります。
つまり、各保険会社の商品は一律で値上げされる、または値下げされる動きには必ずしもなりません。
2-2.保険料は「予定利率」に影響される
予定利率とは、各生命保険会社が自社の保険料を設定する場合の基となる前提の一つです。
保険加入者が支払う生命保険料のほとんどは、将来、保険加入者(被保険者)が死亡したことで支払われる死亡保険金、病気やケガの治療等へ支払われる給付金に備え、「責任準備金」として積み立てられることになります。
この積み立てる必要のある責任準備金額を計算する際、各保険会社の想定する運用利回りが「予定利率」となります。この想定には患者の受診率や死亡率、後述する標準利率も参考とされます。
この予定利率が高ければ高いほど保険料は安くなります。逆に予定利率が低ければ保険料は高く設定せざるを得なくなります。
〇予定利率に大きな影響を与えるもの
ただし、予定利率は各保険会社がそう簡単に、自由な設定ができるわけではありません。
保険会社が倒産する事態になり世の中が混乱しないように、ある程度の健全性は確保しなければなりません。
その場合の基準を定めるのが金融庁であり、この金融庁が設定した基準こそ「標準利率」と呼ばれています。
各保険会社はこの標準利率を基にして、自社の状況を反映させ、予定利率を発表します。
最近の標準利率は2017年4月から、従来の1%→0.25%へ引き下げることが決定されました。そのため、2018年4月には生命保険の保険料を値上げする保険会社が続出しました。
〇では具体的に保険料へどんな影響が?
2018年の各保険会社が販売する生命保険料の値上がり幅は、約10%~25%と言われています。
この値上がり幅が保険料にどんな影響を与えているか具体例をあげて検証します。
(例)
- 保険種類:死亡保険(終身)
- 保険加入者:30歳男性(加入時)
- 死亡保険金:470万円
- 保険料払込期間:60歳まで
保険加入者が加入した年齢は30歳で、保険料払込期間は60歳までなので30年間(360ヶ月)は保険料を支払いことになります。
そして、値上げ前の毎月の支払保険料が10,000円と設定し、この支払保険料から10%upおよび25%upした場合を比較してみます。下表を参考にしてください。
値上げ幅の比較 | 値上げ前 | 10%up | 25%up |
保険料(月払) | 10,000円 | 11,000円 | 12,500円 |
払込保険料総額 | 10,000円×360ヶ月→360万円 | 11,000円×360ヶ月→396万円 | 12,500円×360ヶ月→450万円 |
保険料差額 | ‐ | 36万円 | 90万円 |
保険料値上げ前と25%up後を比較すれば、30年間で90万円もの差が生じることになります。
2-3.社会的な背景もある
生命保険料の改定は、当然金融庁が標準利率を引き下げたから、保険会社も単に迎合して予定利率を引き下げたわけではありません。更に、日本で顕在化したきた社会背景も存在します。
〇今後も保険料の値上げが行われるのは
そもそも日本社会内の変化に伴い、医療保険やがん保険、介護保険は保険料の値上がりが早くから予想されていました。
わが国では、少子高齢化が進展し、長生きをする方々は増えていく予測が立てられています。当然、医療にかかる機会や介護サービスを受ける機会は増えていくはずです。
〇公的給付制度が縮減される?
日本の少子高齢化の影響は、民間だけではなく国の公的給付制度にも変化を及ぼす危険性があります。
実際に、必要な財源の確保を目的として公的制度の改定が相次いでいます。
公的年金は60歳→65歳へ年金受給を遅らせることになりました。また、後期高齢者医療制度(原則1割医療費負担)では、たとえ75歳以上でも、現役並みの所得者ならば3割医療費負担となります。
〇公的給付制度の縮減の穴埋めは民間保険で
公的給付制度ではとても医療費や、老後の資金が賄えないと不安視されれば、どなたも民間の保険商品へ加入を検討されることでしょう。
保険会社としてはお客が増えてありがたいはずです。しかし、保険金を支払う以上は、増加する利用者と保険金支払額が、現在設定している保険料に見合わなくなってくることもあります。
場合によっては保険会社の運営にも支障が出てしまいます。そのために、保険料を改定する必要があるのです。
3.生命保険料の値上げについて・その2
なにか将来に希望を持てなくなってしまったのは私だけでしょうか?非常に不安を感じます。
では、現時点での生命保険料の値上げはどうなっているのでしょう・・・?
第3章では2018年度の生命保険料値上げ・値下げ等について解説します。
3-1.2018年度の保険料値上げ・値下げ
生命保険料の改定は前述した通り、概ね4月からなので、こちらでは2018年度の生命保険料値上げ・値下げ等を取り上げます。
各保険会社の保険料の改定状況は下表を参考にしてください。
保険会社・商品 | 保険料改定内容 |
①朝日生命 | 全体として値上げ傾向↑ |
スマイルセブンSuper(がん保険) | 値上げ・値下げが混在する状態 |
スマイルメディカルネクストα(医療保険) | 値上げ↑ |
②オリックス生命 | 全体として値上げ傾向↑ |
・終身保険RISE ・定期保険Fine Save ・収入保障保険Keep ・特定疾病保障保険With ・定期保険ロングターム7 等 |
値上げ・値下げが混在する状態 |
・特定疾病保障保険(定期) ・新がん保険(2002)V型 |
値下げ↓ |
③ソニー生命 | 全体として値上げと値下げが混在 |
・家族収入保険 ・逓減定期保険 ・無解約返戻金型平準定期保険 ・無解約返戻金型平準定期保険(障害介護型) 等 |
値上げ・値下げが混在する状態 |
終身保険 | 販売停止 |
・平準定期保険 ・低解約返戻金型平準定期保険(障害介護型) 等 |
値上げ・値下げが混在する状態 |
逓増定期保険 | 値上げ↑ |
④損保ジャパン日本興亜ひまわり生命 | 全体として値上げと値下げが混在 |
・無解約返戻金型収入保障保険 ・定期保険 ・低解約返戻金型定期保険 ・無解約返戻金型定期保険 |
値下げ↓ |
・医療保険(2014) ・終身保険 ・低解約返戻金型終身保険 ・養老保険 ・こども保険 ・特定疾病保障定期保険 |
値上げ・値下げが混在する状態 |
・がん保険(2010) ・払込期間中無解約返戻金限定告知医療保険 |
値上げ↑ |
⑤東京海上日動あんしん生命 | 全体として値下げ↓ |
・家計保障定期保険NEO ・定期保険 ・長割り定期 ・災害保障期間付定期保険 ・長生き支援終身 ・終身保険 ・養老保険 ・5年ごと利差配当付養老保険 ・5年ごと利差配当付こども保険 |
値下げ↓ |
⑥日本生命 | 全体として値下げ↓ |
・定期保険 ・終身保険 ・養老保険 ・3大疾病保障保険 ・長期定期保険 |
値下げ↓ |
・総合医療保険 ・就業不能保険 |
値上げ↑ |
⑦三井生命 | 全体として値下げ↓ |
・定期保険-M ・グランドクルーズ(終身保険) ・ドリームクルーズワイド(外貨建て終身保険) |
値下げ↓ |
・大樹セレクト(セレクト保険) ・ザ・らいふ-M(養老保険) |
値上げ・値下げが混在する状態 |
⑧マニュライフ生命 | 全体として値下げ↓ |
・未来につなげる終⾝保険 ・こだわり終⾝保険v2 |
値下げ↓ |
表をみてもおわかりの通り、金融庁の標準利率を参考にして予定利率を設定するとしても、一律に全社で全商品の保険料を値上げするというわけではありません。
保険会社によっては、販売商品ごとに保険料の値上げ・値下げを行ったり、商品の保障プランごとに保険料の値上げ・値下げを行ったりします。
むしろ、全体的に保険料の値上げ傾向がある中、東京海上日動あんしん生命やマニュライフ生命は、商品の一律値下げを行っています。
3-2.死亡保険は安くなる傾向?
前述した表をみて気になった方々もおられると思いますが、「定期保険」と呼ばれる商品が全てでは無いにしても、保険料の値下げされているケースが目立っています。
定期保険とは保険期間を限定した死亡保険のことです。この保険の特徴は、保険期間が終了しても保険料は1円も戻らない「掛け捨て型」であることです。
日本では長寿化が進展しており、定期保険で設定した保険期間内に亡くならない被保険者が多くなっています。
つまり、定期保険で死亡保険金を支払うタイミングが減少している分、保険料を安く設定することが可能なわけです。
一方、終身保険は保険加入者(被保険者)が解約しない限り、確実に受取人へ保険金が下ります。そのため、死亡保険でも終身保険の場合は概ね保険料は上がっています。
3-3.医療保険、がん保険は高くなる傾向?
このように長生きするお年寄りが増えることは良いことですし、実際に定期保険は安くなっている傾向と言えます。
ただし、それは決して長寿化が進展した分、「健康な状態を維持」できる高齢者が増えたという意味ではありません。
将来、高齢者の全体的な病気やケガ、介護のリスクは非常に高まり、入院や手術、介護費用を必要とする方々は増加していくことでしょう。
また、「2-3.社会的な背景もある」で述べた通り、国が公的給付制度を見直し、公的医療保険や公的介護保険のサービス内容が縮減されていけば、それを補うために民間の保険商品へ加入を希望する方々は多くなるでしょう。
民間保険会社の販売する医療保険やがん保険、介護保険商品の需要はドンドン増していくことになるかもしれません。
この状況では、保険会社は医療保険・がん保険・介護保険の保険金支払額の増加が不可避であり、医療・介護系の保険商品は今後も保険料の値上げが予想されます。
4.火災保険料の値上げについて
生命保険料は値下げされている商品があるので少し安心しました。でも損害保険はどうなるのでしょう?
自分はマイホームの購入を検討しているので、火災保険へ加入したいのですが。
火災保険料の値上げについても是非知りたいです・・・・。
こちらでは、各保険会社が火災保険料を定める際の「参考純率」等を解説します。
4-1.火災保険料が改定されるのは2019年中にも
火災保険料の改定は2019年中にも行われる見込みです。ただし、火災保険料は、改定率が日本全国一律で皆同じではなく、都道府県ごと、建物の構造(木造か鉄筋か)によっても大きく異なります。
火災保険料の改定を注目するならば、ご自分がお住いの都道府県の改定率は現在どうなっているか、居住している建物の構造も把握する必要があります。
そして、火災保険や自動車保険をはじめとした損害保険料の値上げ・値下げの重要な参考基準となるのが、次項で解説する「参考純率」です。
4-2.保険料は「参考純率」に影響される
参考純率とは、損害保険の分野で、各保険会社が保険料率を算定するとき利用する純保険料率の参考値をいいます。
〇参考純率を出すのは損害保険料率算出機構
参考純率は、特別の法律によって設立された法人である「損害保険料率算出機構」が、会員となっている各保険会社から提供されたデータを基に算出します。
現在の算出対象は、火災保険、自動車保険(任意保険)、傷害保険等となっています。
〇純保険料率と付加保険料率
基本的に損害保険の保険料率は、被保険者へ支払う保険金に充当する「純保険料率」と、保険事業を運営する部分等に充当する「付加保険料率」で構成されています。
各保険会社は、参考純率を基に自社の純保険料率を算出して、その算出した付加保険料率を加えた独自の保険料率を割り出します。
例えば、自動車保険の保険料ならば参考純率はもちろんですが、自動車事故の発生率や損害率等も加味されます。
保険会社は、独自の保険料率を割り出し、金融庁長官に認可申請(届出)することが可能です。
4-3.各都道府県の参考純率の改定率は次の通り
火災保険では2018年6月に参考純率を平均で5.5%引き上げる改定が行われました。
この原因としては、2013年度の関東甲信地方で大規模な雪災の発生、2015年度に九州を中心として被害が大きかった台風15号等の自然災害が発生し、保険金の支払いが増加したためです。
参考純率における改定率を具体的な事例をあげて解説します。
(例)
- 補償対象:個人向け居住用建物・家財
- 建物の保険金額:2,000万円
- 家財の保険金額:1,000万円
(1)鉄筋コンクリート造等の共同住宅(M構造)の場合
都道府県 | 改定率(%) |
東京都(三大都市圏) | 20.4↑ |
大阪府(三大都市圏) | 12.0↑ |
愛知県(三大都市圏) | 7.2↑ |
鹿児島県(最大) | 40.1↑ |
愛媛県(最小) | 4.1↑ |
(2)鉄骨造等の耐火構造などの建物(T構造)の場合
都道府県 | 改定率(%) |
東京都(三大都市圏) | 6.3↑ |
大阪府(三大都市圏) | 1.8↑ |
愛知県(三大都市圏) | 1.5↓ |
鹿児島県(最大) | 24.4↑ |
愛媛県(最小) | 8.7↓ |
(3)木造住宅等のM,T構造以外の建物(H構造)の場合
都道府県 | 改定率(%) |
東京都(三大都市圏) | 6.2↑ |
大阪府(三大都市圏) | 2.6↓ |
愛知県(三大都市圏) | 9.8↓ |
鹿児島県(最大) | 25.9↑ |
愛媛県(最小) | 17.3↓ |
5.地震保険料の値上げについて
火災保険も自然災害が原因で、2019年中に保険料値上げが十分予想されますね。自然災害と言えば最近日本で地震災害が頻発しています。
この地震の保険料改定についても知りたいです・・・。
第5章では地震保険の特殊性および地震保険料改定等を解説します。
5-1.地震保険は特殊
地震保険とは、地震・噴火・津波な原因の倒壊、火災や流出による建物・家財の損害を補償するための保険です。
この地震保険は単独での加入は認められず、火災保険とセットで入る必要があります。
保険期間は短期、1年または長期(2年~5年)で設定可能ですが、保険金額は火災保険金額の30%~50%の範囲内に縮減されます。また、建物は5,000万円、家財は1,000万円が補償上限です。
〇どこの地震保険へ加入してもみな同じ?
地震保険の補償内容は各保険会社の商品を比較しても明らかですが、内容は同一となります。
また、保険金支払限度額も「地震保険に関する法律」で、1回の地震等で政府および民間保険会社の支払限度額は決められているのです。
なお、この支払限度額は2016年4月1日に改定され、1回の地震つき11兆3,000億円となっています。
〇地震は怖い!
政府の関与が強い理由は、地震という日本では身近で、かつ、それを原因とする損害の危険性が大きすぎるからです。
地震が起きると震源地はもちろん、その周辺地域へ広範囲にわたる被害を及ぼします。
例えば、東日本大震災での建築物の全半壊は合計40万戸以上、建築物へも甚大な被害が発生しています。
そのうち、地震保険契約者に及んだ被害だけでも、膨大な件数となることは容易に想像できるはずです。
〇なぜ政府がこれほど関与する?
地震被害が起きたら保険金の請求は、大量かつ一斉に各保険会社へ殺到し、保険金支払いが全く追い付かない事態も考えられます。
それに加え、保険契約者に支払う保険金額は、たとえ損害件数が多くても、公正公平に行きわたることこそ大切です。
そのため、保険会社だけで地震保険の補償を行うのではなく、政府も一緒になって保険金支払いを支える必要があるのです。
5-2.地震保険料改定は全社共通
東日本大震災や熊本地震、更に将来南海トラフで発生し得る大規模な地震被害は、とても各保険会社だけで補償を賄えるレベルの被害ではありません。
この深刻な被害へ迅速かつ公平に対応すべく、地震保険法では「国と保険会社が共同で運営している制度」と明記されています。
その運用のため、政府や保険会社が共同して備えにあたる独特な仕組みがあります。それが「再保険」と呼ばれる制度です。
来るべき大震災級の地震被害に対し、各損害保険会社のリスク軽減・保険金の公平な配分を行うシステムが既に構築されています。
つまり、保険契約者がどの保険会社と保険契約を締結しても、最終的には「政府+損害保険会社」が共同で被害を補償することになります。
地震という強大な災害に備えるため、競争原理はひとまず置いて、地震保険料は全社共通に定め、かつ安定的に商品を提供することが優先されることとなります。
5-3.地震保険料の改定
地震保険料は2019年1月に改定されています。地震保険料は以前と比較して全国平均約3.8%の値上げとなっています。
こちらでは、事例を上げ、改定前後の保険料の推移を、改定率の引き上げ幅が多い都道府県からランキングしていきます。
(例)
- 建物の構造:コンクリート造、鉄骨造
- 地震保険金額:1,000万円
- その他:割引適用なし
都道府県ランキング | 保険料改定前後 | 改定率(%) |
1位 福島 | (前)7,400円→(後)8,500円 | 14.9%↑ |
2位 茨城、徳島、高知 | (前)13,500円→(後)15,500円 | 14.8%↑ |
3位 埼玉 | (前)15,600円→(後)17,800円 | 14.1%↑ |
4位 宮城、山梨、香川、大分、宮崎、沖縄 | (前)9,500円→(後)10,700円 | 12.6%↑ |
5位 千葉、東京、神奈川、静岡 | (前)22,500円→(後)25,000円 | 11.1%↑ |
6位 岩手、秋田、山形、栃木、群馬、富山、石川、福井、長野、滋賀、鳥取、島根、岡山、広島、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島 | (前)6,800円→(後)7,100円 | 4.4%↑ |
7位 愛媛 | (前)12,000円→(後)12,000円 | 変化なし |
8位 北海道、青森、新潟、岐阜、京都、兵庫、奈良 | (前)8,100円→(後)7,800円 | 3.7%↓ |
9位 大阪 | (前)13,200円→(後)12,600円 | 4.5%↓ |
10位 愛知、三重、和歌山 | (前)17,100円→(後)14,400円 | 15.8%↓ |
改定率の引き上げ幅が最も多い都道府県は福島です。ただし、保険料自体は決して高い金額とはいえません。
地震保険を希望する方々は、速やかに保険へ加入し地震への備えを万全としましょう。
6.保険料値上げと保険加入
どの保険も値上げは避けられない状況のようですね。今のうちに保険へ加入しておいた方が良いのでしょうか?
なにかアドバイスがあれば教えていただきたい・・・。
こちらでは、駆け込み加入は有効なのか?保険選びのコツ等について解説します。
6-1.値上げされる前の駆け込み加入
お金がもったいないので、保険料が値上げされる前に、駆け込み加入を検討する方々もおられることでしょう。
もちろん、お目当ての保険商品があって、他社の保険とも十分に比較した上で加入するか悩んでいたけど、保険料が上がる可能性もあるのでこれを機会に加入する、ということであれば問題ありません。
ただし、単に備えはしたいけどお金がもったいないからという理由で、大急ぎで保険加入に踏み切るのは妥当ではありません。
保険商品は千差万別で、見切り発車で加入した商品がはたしてご自分に合った保険なのか、慎重に判断しないと後悔することへつながる場合もあります。
6-2.ずっと解約しない方が良い?
「1-2.保険に加入したら値上げの心配は無いが・・・」でも解説しましたが、加入契約してしまえば保険料の改定を不安視する必要はありません。
ただし、医療保険の場合は以前加入した商品が、保険料が安くて加入したものの、より手厚い保障を受けたいと希望することもあるはずです。
例えば、独身の頃は保険料がとにかく安く、まさかの時は入院給付金や手術給付金だけ下りればいいと思って加入したとします。
その後、結婚して子もできて自分が入院した際に、下りる給付金を家族の生活保障に充てたい場合は、入院給付金の増額や入院一時金の追加等が必要となることがあります。また、死亡保障も検討することになるかもしれません。
この場合には、保障内容がより手厚い医療保険へ加入し直すことになるでしょう。いったん保険加入したからといって、このままずっと解約しなくて良いという状況が続かない場合もあるのです。
6-3.大切なのは保険料よりも保険内容
生命保険でも損害保険でも、ご自分や家族等に必要と感じた保険内容を備えた商品へ加入することが最優先です。
そうしなければ肝心な時に、ご自分たちの納得する金銭的サポートが得られなくなる恐れもあります。
保険料については、保険内容の次に判断すべき事柄であるといえます。
もしも、保険商品の保険料を気にするなら純保険料と付加保険料を考えてみましょう。純保険料は保険金の支払い原資が該当し、付加保険料は代理店手数料、社費、保険料収入が含まれます。
この2つで保険料は構成されています。もしも、より保険料を安く抑えたいなら、ネット保険へ加入するのが良い方法です。
ネット保険の場合、付加保険料の一つである代理店手数料等が無い分、保険料は安くなる傾向があります。
そのため、全体の保険料に付加保険料が占める割合は概ね20%です。これが対面型の保険ならば付加保険料の割合は増加し4割~5割程度となります。
保険料を軽減したいならば、まずネット保険へ加入を検討してみましょう。
7.まとめ
保険料の値上げは、保険加入希望者にとって不安材料ですが、大切なのは保険でサポートされる内容です。
ご自分・家族のまさかのために備えるものである以上、まずは内容を吟味することが優先されます。