火災保険の質権設定のメリット・デメリットは何?詳細に解説します!

ご自分がマイホームを購入する際、住宅ローンを利用することもあるでしょう。この場合には金融機関に借金をする形となります。

一方、利用者とローン契約を結んだ金融機関側にとっては、その住宅にまさかの事態が起きたら一大事です。貸したお金が回収できなくなるからです。

質権の設定は、お金を借りた人が加入した火災保険の保険金を、優先して受け取るために設定します。

つまり、建物が火災等の自然災害で焼失・流出しても、金融機関は火災保険で下りる保険金を、貸したお金の弁済に充てることができます。

住宅ローンを利用する際、この質権設定の要求を行う金融機関があります。では、質権を設定することは金融機関にばかりメリットがあるのでしょうか?

そこで今回は、火災保険の質権設定の方法と、メリット・デメリットについて解説します

この記事を読めば、火災保険の質権設定に関する基本的知識と、その注意点がおわかりになることでしょう。

1.質権について

窓際の植物

自分はいよいよマイホームを購入したいと思っています。もちろん住宅ローンは組む予定です。

しかし、友人から住宅ローンを利用する場合、金融機関から火災保険の質権設定を要求されることがあると聞きました。

そうはいっても、「質権」ってそもそも何なのかよくわかりません。

質権とはどんなものなのか詳細を知りたいです・・・・。

第1章では、質権とは何か?その特徴について解説します。

1-1.質権とは

質権とは、いわば他人の財物を支配することによって、自己の債権の回収を確実にする権利の一つです。

この「債権」とは、例えばご自分が友人にお金を貸した場合、「貸した分のお金+利息」を受け取る権利と言えます。

とはいえ、口約束だけではいかに親しい友人と言えども、利息どころか貸したお金が戻ってこないこともありますよね。このままでは、貸したご自分は不安で仕方がありません。

そこでお金を借りた人から、お金を確実に返してもらうための手段して、何らかの価値のある物を提供してもらえれば安心できるでしょう。

この価値のある物を提供してもらうことは、「債権の担保」と呼ばれています。

債権の担保となり得る物には、まさしく高価な物品が該当します。その他に権利書等のような書類も、価値のある物として担保の対象となります。

そして、もしもお金を借りた人が貸したお金を返せない事態になった時、ご自分は債権の担保に預かっていた物を売却できます。

この売却で得た利益を、ご自分は優先的に得ることができます。これを「質権」と言います。

1-2.質権は民法で規定されている

六法全書

質権は、日本において私法の一般法として定めた法律である「民法」で規定されています。

民法第342条によれば、質権者は、その債権の担保に債務者または第三者から受け取った物を占有できます。

それに加え、その受け取った物について、他の債権者よりも先に自己の債権の弁済を受ける権利を有するとされています。

この質権は、住宅ローンという形でお金を貸す側の金融機関でも、利用されています。

次項では、火災保険で質権を設定する意味について解説します。

1-3.火災保険で質権を設定する意味

マイホームを購入する人が借金をするのは、その購入費に充てるだけの貯蓄がなかったり、別の用途に貯蓄を使ったりするためであることが想定されます。

では、貯蓄にあまり余裕のない人へお金を貸した場合、債権の担保となり得るのは一体何でしょう?

不運な事態に陥入り、貸した相手方がお金を返せなくなった時、その相手方の所持する現金や身ぐるみを剥いで、ご自分の弁済とするのはやりすぎです。

そのため、住宅ローンに関しては金融機関がローン利用者へ、火災保険をかけるよう促し、それに質権を設定します。

仮に、火災でローンを組んだ家が丸焼けになっても、下りた火災保険金は金融機関が優先的に受け取れることとなります。

このような方法で金融機関は安心を得るのです。住宅ローンについては第2章で解説します。

2.質権と住宅ローンについて

燃える家

自分は住宅ローンを利用する予定ですので、こちらもおさらいしたいです。

住宅ローンと、リスク回避のための質権設定について詳細を知りたいです・・・。

こちらでは、住宅ローンとは何か?住宅ローン返済までリスクを担保する、質権の設定を解説します。

2-1.住宅ローンとは

住宅ローンとは、ご自分や家族が所有する一戸建てまたはマンションの購入、家屋の改築費のため金融機関からお金を借りることです。

数千万円に上る住宅費用を全額、自分のお金で支払う人はナカナカいないことでしょう。

そこで家屋を購入する場合、ほとんどの皆さんが住宅ローンを利用し、その返済をしていく方法がとられます。

当然、返済していく場合には借りたお金だけを返せば良いわけではなく、利息もかかります。

毎月のローンを返済していく上で、借りたお金(元金)の返済分に加え、利息分も上乗せした金額を滞りなく払っていくことになります。

2-2.マイホームは高額なお買い物

青空の住宅街

住宅ローンは、人の居住を目的とした住宅の購入ならば、原則として新築や中古物件を問わず利用可能です。

しかし、金融機関からしてみれば貸す金額は多額になることが多いため、ローンを希望する人が、本当にお金を返すことはできるのか(返済能力)が慎重に判断されます。

ローンを希望する人が、複数の消費者金融等から借金をしている多重債務者や、無職の人、非正規従業員の方々は、ローンを組むことは非常に難しくなります。

一方、ローンを希望する人が今まで借金をしたことが無い人、会社の正社員であれば、余裕に審査が通るかといえば、そうとは限りません。

金融機関は、貸したお金を確実に返してもらうために、更なる安全策を講じます。それが、「火災保険の質権設定」なのです。

2-3.トンズラは御免!

住宅ローンを組んだ人(借金をした人)が、残念ながら返済ができなくなってしまった場合なら、ローンを組んで購入した土地・建物を取り上げます。

〇金融機関の取り得る方法はまず競売

通常なら金融機関はローン契約を結ぶ際、土地や建物も担保とします。これを「抵当権」と呼びます。

住宅ローンを組んだ人が返済できなくなると、この土地・建物を競売にかけ、借金の回収に充てます。

しかし、建物はいかなる場合も、無傷であるという保証はありません。

〇建物の焼失や他の事態もあり得る

住宅ローンを利用した購入物件が、将来、火災により全焼したり、河川の氾濫で洪水被害が発生し、建物が倒壊・流出したりする事態も考えられます。

その結果、ローン利用者が自己破産を行うことや、行方不明(いわゆる夜逃げ)になってしまい、借金を踏み倒すリスクも出てきます。

このような事態になると、債権者である金融機関は物件を競売にかけられず、いわゆる「貸し倒れ」が発生してしまいます。

それを防ぐため、火災保険に質権を設定し、保険会社より支払われる保険金から優先的に弁済を得る、という方法がとられるのです。

3.質権のメリット・デメリットについて

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火災保険の質権設定はここまでみてくると、お金を貸した金融機関ばかりの安全策のような気がします。

一方、住宅ローンを組んだ人(借金した人)に何か利点はないのでしょうか・・・?

こちらでは、火災保険の質権設定をした場合、住宅ローンを組んだ人(借金した人)に有利となる点、およびその注意点等を解説します。

3-1.質権は保険加入者にどんな影響が?

一見、お金を貸す側(金融機関)ばかりにメリットのありそうな火災保険の質権設定ですが、借金した側にもそれなりにメリットはあります。

そもそも質権が設定されても、ご自分や家族が、住宅ローンを組んで購入した建物の使用を制限されるわけではありません。

住宅ローンを組んでも、火災保険へ質権を設定しても、普通に生活をする分には全く不自由がなく、世帯主はローンの返済をコツコツ行うことになります。

次項では、住宅ローンを組んだ人にとっての、質権を設定するメリットと、デメリットについて解説します。

3-2.質権のメリット

家のおもちゃ

住宅ローンを組んだ人にとって、火災保険へ質権を設定するメリットは次の2点があげられます。

(1)まさかの事態でも返済ができる

火災保険という、しっかりとした担保を設定しているので、まさかの事態にも安心できる点です。

日本は自然災害が多く、火災のみならず台風や洪水等が発生し、最悪の場合に建物が全壊するような事態も想定されます。

このような火災や自然災害のトラブルで建物が破損した場合、請求により火災保険金が下ります。この保険金を住宅ローンの返済へ自動的に充てることができます。

下りた保険金で、すぐにローン返済が可能なので、その分、借金(元金)に上乗せされるはずだった利息も削減できます。つまり、資金の節約にもなるわけです。

(2)金融機関からアドバイスが得られる

後述しますが火災保険に質権を設定する場合は、保険契約した際、損害保険会社から受け取る「保険証券」を金融機関へ預けることになります。

火災や自然災害のトラブルが発生すれば、保険加入者はこのような経験をしたことが無い分、パニックに陥ることもあります。

そんな時に保険証券を預けている金融機関へ、事態を報告しその指示に従うこととなります。

金融機関は保険金請求手続きを熟知しているため、指示通りに従えばスムーズに火災保険金が下り、ローンの返済へ充てることができます。

いざという時に、頼りになる存在がいることで、精神的な安定が得られることもメリットといえます。

3-3.質権のデメリット

頭を悩ます男性

住宅ローンを組んだ人にとって、火災保険へ質権を設定したことで気を付けるべき点は、次の2つがあげられます。

(1)火災保険の変更に制約あり

お金を借りている金融機関から、その金融機関と提携している保険会社の火災保険に加入するよう勧められ、それに応じ火災保険へ加入することも間違いではありません。

ただし、加入した火災保険の補償内容が、ローンを組んで購入した物件の環境とあまりマッチしていないケースもあります。

例えば、加入した火災保険の補償範囲に、火災や爆発の他、洪水等の水災や雪災も含まれている場合があります。

ご自分の購入物件が高台にあるなら洪水被害はまず考えられず、南の地方なら大雪になり積雪で建物が押しつぶされるリスクもあまり考えられません。

ご自分の周辺環境ではあり得ないリスクの補償は、それを外せばその分、保険料は安くなります。

しかし、後から火災保険の内容変更をしようとしても、その都度、ご自分の債権者である金融機関の同意が必要となります。

火災保険へ質権を設定する場合は、自由に火災保険の内容変更ができなくなることを事前に了承しておきましょう。

(2)火災保険金による生活再建が難しくなる

ご自分や家族が火災等に遭った場合、保険金を頼みにできず、生活再建が難しくなるケースもある点に留意するべきでしょう。

火災保険に質権が設定されている場合は、保険金が下りてもまず住宅ローンの返済に充てられます。

当然、保険金を返済に充てて余剰が出れば、住宅ローンを組んだ人にその分が支払われます。ただし、その余剰分で生活が再建できるだけの金額を賄えるかは疑問です。

特に建物が全焼した場合等は、アパートに仮住まいを余儀なくされたり、焼失した家財を再び購入したりする必要があるでしょう。

緊急で必要となったお金が、十分に工面できない事態となるかもしれません。その際は、金融機関に相談して対応を検討することが必要です。

4.火災保険に関する質権の手続きについて

笑顔の少女

火災保険の質権設定は、借金をする側にもメリット・デメリットはそれぞれあるということですか。

では、災保険の質権設定に関する手続きを教えてください・・・。

第4章では、火災保険の質権を設定および解除する手続き等について解説します。

4-1.火災保険への質権設定・保険金請求手続き

火災保険の質権を設定する手続きは、ほとんど通常の火災保険契約手続きと変わりません。ただし、契約の際は追加で提出が必要な書類もあります。

〇火災保険の質権設定手続きの流れ

質権を設定する際は次の手順ですすめることになります。

  1. 火災保険の保険料と補償内容の確認:加入する火災保険の補償条件や内容をしっかり確認しましょう。
  2. 質権設定承認請求書の取得:保険契約する保険会社または金融機関所定の用紙へ、保険会社・金融機関の指示に従って必要事項を記載します。
  3. 質権設定承認請求書に加え、申込書等を保険会社へ提出
  4. 契約が成立し保険証券取得後、保険証券を金融機関へ預ける

保険証券は質権者である金融機関が保管することになります。そのため、保険契約を解約したり、契約内容を変更したりすることは、ご自分の一存ではできないことになります。

ただし、保険証券の写しは、質権の設定手続きが済み次第、保険会社から発送されます。保険証券の写しがご自宅に届くまで、だいたい1か月前後が目安です。

〇火災保険の保険金請求手続きの流れ

なお、質権を設定した火災保険に、保険金請求を行う際は、次の手順で手続きをすすめることになります。

  1. 火災や自然災害等で建物の全部または一部に被害発生
  2. 金融機関に被害報告、その指示に従う
  3. 保険会社へ連絡し、損害の調査を依頼
  4. 損害の調査開始
  5. 損害額の決定:この段階までに金融機関と話し合い、保険金が支払われる口座をどうするか決める
  6. 保険金支払い:指定された口座に保険金が振り込まれる

火災・自然災害等で建物の全部または一部に損害が発生し、保険金が下りる場合には、保険加入者の口座または質権者(金融機関)の口座のどちらに支払われるのかを、質権者へ確認する必要があります。

ただし、このようなケースでは、住宅ローンの残額と相殺する方法が多くとられます。

4-2.火災保険への質権解除の手続き

説明をする男性

住宅ローンを組んだ人(お金を借りた人)が、全ての返済を終えた時は、質権設定を解除する手続きが行われます。

次の手順ですすめることになります。

  1. 住宅ローンを全額返済し終えた
  2. 返済完了後、金融機関から保険証券および「質権消滅承認請求書」がご自宅へ送付される
  3. 今度は保険会社に質権消滅承認請求書が届いた旨を連絡
  4. 質権消滅承認請求書を提出し質権の解除完了

質権の解除が完了すれば、火災保険へ継続して加入したり、保険の見直しや解約したりすることも、保険加入者の自由です。

ただし、借りた側が住宅ローンを完済すれば、金融機関によって保険会社と直接、質権解除の手続きを行うこともあります。

住宅ローンを全額返済し終えた時、どのような手続きを取ればよいか一度金融機関へ確認してみましょう。

4-3.手続きの際の注意点

住宅ローンを組んだ際、火災保険の質権設定手続きさえ行えば良い、というわけにはいかない場合もあります。

〇日本は地震大国でもある

なぜなら、近年の日本全国で多発している地震のリスクがあげられます。火災保険は火災の他、台風・豪雨・洪水等の被害も補償範囲となります。

しかし、地震や噴火、それらが原因となる津波被害は火災保険の対象外です。これらの被害が補償されるためには地震保険の加入が必要不可欠です。

当然、地震保険も火災保険と同様に質権が設定できます。住宅ローンを組む時に金融機関の担当者から、火災保険とセットで加入するように要求されることもあるでしょう。

〇地震保険の注意点

ただし、地震保険は個別に加入はできず、火災保険と合わせて保険契約を締結する必要があります。

また、火災保険へ地震保険をセットして契約すれば、保険料が2倍以上になってしまうこともあります。

地震被害も補償され、質権を設定した場合ならローンの返済にも充てられますが、それなりに金銭的な負担となるので、この点を踏まえて手続きを行う必要があります。

5.火災保険に質権を設定した場合の疑問点

階段と綺麗な部屋

いろいろと火災保険の質権設定について教えてもらいましたが、まだまだ不明な点はあります。

質権に関するその他の疑問点についてお聞きしたいです・・・。

第5章では、火災保険の質権設定に関するいろいろな疑問点を解説します。

5-1.下りる火災保険金は全部持っていかれる?

火災保険金が下りた場合、どんなケースでも質権者である金融機関が債権回収に充てるのか、心配な人がいるかもしれませんね。

あくまで保険金請求に質権者(金融機関)の同意は必要ですが、これは一律に保険金が質権者のものとなるという意味ではありません。

〇建物所有者が保険金を受け取ることも

住宅ローンを組んだ建物の一部に被害が発生したら、建物すべてが焼損したわけではありません。これまでコツコツまじめにローン返済を行ってきた人ならば、金融機関から信用されているはずです。

このようなケースでは、その所有者(お金を借りた人)へ保険金が支払われることに、金融機関が同意することでしょう。

更に、全焼する事態となっても、実は金融機関の判断で保険金で回収しない場合もあるのです。

例えば、5,000万円の住宅ローンで建物を購入し、火災保険金額5,000万円へ質権を設定して、3,500万円返済した時点で全焼したという事例を考えてみましょう。

金融機関側からみれば、残り1,500万円に質権を行使し、保険金から債権回収すれば、質権設定の目的を果たしたことになります。

〇金融機関は利息を得たい

しかし、1,500万円を新たに融資して、利息を得る機会も失うことになりますよね?

金融機関からすればこれはもったいない話です。だとすれば、保険金を全て所有者(お金を借りた人)に取得させ、再築した住宅へ1,500万円分の抵当権を設定することで、融資を継続することが可能となります。

そのため、ケースによっては、金融機関が火災保険金で債権回収を行わない場合もあるのです。

5-2.別の火災保険に加入すると保険金が満額得られる?

たくさんの鍵

住宅ローンを組んだ人の中には「質権が設定された火災保険の他に、別の火災保険へ加入すれば、その分の保険金が満額下りる。」と、考えている人もいるかと思います。

しかし、そうはいかないところが損害保険の特徴と言えます。なぜなら、火災保険で下りる補償金額は、実際の損害額に限定されてしまうからです。

例えば、建物にA火災保険(質権設定)とB火災保険をかけて、それぞれ5,000万円の保険金設定を行っていたとしましょう。

そして、火災が発生し5,000万円の損害額と算定されたとき、A火災保険(質権設定)で下りる保険金は金融機関に支払われるが、B火災保険会社から下りる5,000万円は自分に支払われる、というわけではありません。

つまり、複数の火災保険へ加入しても、重複して損害額を上回る保険金は支払われないことになるのです。

このようなケースでは、保険料が余分にかかるだけでご自分にとって有益な方法といえないのは明らかです。

5-3.フラット35とは?

フラット35とは、長期固定金利の住宅ローン商品です。この商品は住宅金融支援機構と、民間の金融機関と共同で提供されています。

住宅金融支援機構は、国土交通省住宅局と財務省が所管省庁となる独立行政法人です。

そのため、「行政法人が、借金した人間の保険金を持っていくのか!」と、困惑する人もいるかもしれません。

しかし、フラット35はあくまで「民間の金融機関と共同」で提供されます。よって、火災保険金請求権への質権設定をするかどうかは、申込窓口の取扱金融機関の対応によります。

もちろん、取扱金融機関が火災保険金請求権に質権を設定したならば、保険金が下りる場合、建物所有者ではなく、住宅金融支援機構へ保険会社から優先的に支払われることとなります。

6.質権設定の最近の動向

ヘルメットをかぶった女性

聞くところによれば、火災保険へ質権設定を行う金融機関は減少しているようですね。

その原因は一体何なのでしょう・・・?

こちらでは、火災保険へ質権設定があまり行われなくなった理由を解説します。

6-1.東日本大震災の発生

2011年3月11日に発生した「東日本大震災」は、死者1万5,895人、重軽傷者6,157人、行方不明者は2,533人に上り(2019年3月8日警察庁発表)、戦後に起きた地震災害の中で最大最悪の被害となりました。

建物の被害も甚大で全壊・半壊は、合計40万2,704戸に上っています。それに伴い、支払われた保険金も多額となりました。

この震災は損害保険の仕組みにも大きな影響を与え、2015年10月より火災保険の加入期間が最長36年→10年と短期化されました。

設定期間の短期化は、同様の大災害が起きた場合、従来の長期火災保険料では、将来の保険金を賄えない可能性が出てきたことを意味します。

金融機関としては、以前であれば36年もの長い加入期間が設定されていたので、更新の際の事務手続きやコストは抑えられていました。

しかし、10年に短期化されるとその分、事務手続きをする機会は多くなり、保険料の値上げ等でコストも増大する可能性があります。

そのため、火災保険の加入期間の短期化を境に、金融機関の中には火災保険へ質権設定を行うのをやめたところがあるのです。

6-2.金融機関の方針転換

手を組む男性

仮に火災保険へ質権設定をしても、金融機関が貸し倒れする可能性はあります。

建物に不測の事態が起きた場合は、貸した側が質権を設定していれば絶対安心というわけではなく、火災保険の補償内容にもよります。

もしも、思ったように補償金額が下りなくても、貸したお金が100%戻る保証というなど、どこにもありません。

金融機関が債権回収できないからと言って、保険会社につめ寄り、下りる保険金額を強引に上げるよう要求することは、非常に困難です。

だとするなら、「5-1.下りる火災保険は全部持っていかれる?」でも述べた通り、下りた保険金をそのまま保険加入者に受け取らせて、その金額から当初のローン契約の通りに返済をしてもらう方が、金融機関にとっては得です。

なぜなら、ローン契約を継続させれば、より多く利息を受け取れて、保険加入者の心理的な抵抗も少ないことが期待できるからです。

6-3.保険利用者は補償内容で火災保険を選ぶ!

最近では、火災保険へ質権を設定する金融機関は減少傾向にあります。ただし、それは住宅ローンを組んだ人が、火災保険へ加入しなくて良いことを意味するわけではありません。

〇加入は質権設定されるから行うのではない

どちらかと言えば以前は、ローンを組む金融機関に促されて火災保険へ加入したという方々も多いことでしょう。

しかし、火災保険や地震保険は、ご自分の財産である建物、および建物内の家財を、自然災害の脅威に備え、事前に補償しておくことが最大の目的と言えます。

そのため、万が一にも自然災害の発生でそれらの財産へ被害が出れば、生活再建を十分に図れるよう、充実した補償内容の設定された商品を選ぶことが大切になります。

〇ただし、フル装備が良いわけではない

とするならば、あらゆる自然災害に補償が下りるよう、火災保険等の補償内容を手厚く設定すれば良いのかといえば、そうではありません。

ご自分の建物が建つ環境を十分考慮し、近隣で盗難被害が多発しているなら盗難被害への補償を手厚くすることや、台風被害が大きい地域なら風災被害が起きた場合に、保険金の全額が下りるよう免責金額(※)を低く設定するという工夫も必要でしょう。

このように、ご自分の生活する環境や、自然災害のリスクに備えた補償の設定が大切です。

(※)免責金額:自己負担額とも呼ばれています。火災保険金の支払われる被害が生じた時、保険加入者側が自己負担する金額のことです。損害額が免責金額を超えなければ1円も保険金は下りません。しかし、最近の火災保険では免責金額を自由に設定することができ、金額を0円にできる保険商品もあります。

7.まとめ

庭のある家

一戸建て住宅やマンションを購入する場合、ご自分に十分な貯蓄があり、そのお金で購入費用を賄えるなら、無理に住宅ローンを組む必要はありません。

しかし、ご自分の貯蓄を超えて住宅ローンを組み、念願のマイホームを購入したいならば、いろいろと乗り越えなければならないハードルがあることも事実です。

ローンを組む際に、ご自分に返済能力があるかどうかの金融機関の審査や、火災保険に質権を設定した場合の、ご自分の権利の制限も、そのハードルの一つです。

そのため、ご自分の世帯の経済状況や、家族の進学等によるライフステージの変化、世帯員の病気やケガのアクシデント、家計の新たな出費を細目に確認しながら、速やかなローン返済を進めていきましょう。

もちろん、住宅ローンを組む際には、金融機関の担当者との相談・不明な点を確認しつつ、返済計画を立てていくことが必要です。

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