みなし配当とは、会社の株主が会社から配当金を受け取っていないにもかかわらず、受け取ったとみなされてしまう配当のことです。
「そんな!理不尽な!」と、思われるでしょうが残念ながら税金(所得税等)が取られてしまいます。
みなし配当にあたるケースは、所得とされる金額が多額に上ることも多く、税金の負担は重くなる傾向があります。
またどんなケースがみなし配当課税に該当するか、不明確な点が多く、株主の皆さんは頭を抱えてしまうかもしれません。
そこで今回は、みなし配当課税に該当するケースと該当しないケース、みなし配当課税の計算方法、配当控除の条件と確定申告について解説します。
この記事を読めば、みなし配当課税に関する基本的な知識を得ることができるはずです。
目次
1.株式の配当金について
受け取った配当金に税金がかかるのは理解できる。しかし、配当金には受取前でも課税されるものがあるという。
心配な話だが、まずは配当金とは何かについておさらいしたい・・・。
こちらでは、配当金とは?そして課税方法等について解説します。
1-1.そもそも配当金とは
配当金とは、わかりやすく言えば株式会社が出した利益の一部を、株主へ還元するお金のことです。
株式会社がその業績によって、例えば「1株あたり〇〇〇〇円を還元します。」と、各株主に利益を配当します。
もしも、1株当たり10円の配当金を出している企業の場合、1,000株購入して保有すれば、「10円×1,000株=10,000円」となり、1万円の配当金を受け取ることができます。
〇配当金が支払われる時期
配当金は株式会社の業績が上がれば、その都度、株主に配当されるわけではありません。
一般的には、株式会社の中間決算と期末決算の年2回にわたって配当金の支払われるケースが多いです。
そうはいっても配当金の支払いに関して、「必ず2回」と法定されているわけではなく、各会社の判断に任されています。
そのため、配当金を年に期末決算のみに支払う会社があれば、四半期決算ごと(つまり年4回)に配当金を支払う会社もあります。
また、会社の余剰資金を投資活動に利用するため、そもそも配当金を支払わない会社もあります。
〇配当金の受け取り方法
株主が配当金を受け取る方法は次の4種類があります。
(1)発行会社より直接受け取り
直接受け取りとはいっても、発行会社で直接手渡して現金を受け取るわけではありません。
発行会社より郵送されてきた配当金(郵便為替支払通知書)を換金する方法です。
株主が必要事項を記載し押印後、郵便局へ持参すると現金が受け取れます。
(2)口座振込
配当金の発行会社から、株主が指定した金融機関へ振り込む方法です。株主にとって受け取り手続きの面倒が無いので便利です。
(3)株式数比例配分方式
あまり聞き慣れない方式ですが、各証券会社で保有している株数に応じ、配当金がそれぞれの証券会社の口座に入金される方法です。
(4)登録配当金受領口座方式
「証券保管振替機構(通称:ほふり)」で管理する株の合計数によって、配当金を指定された金融機関へ一括で振り込んでもらう方法です。
1-2.税率と課税方法
配当金はただ株式会社から受け取って、株主の利得となるだけではありません。
〇配当金の課税方法
配当金には税金がかかります。個人が受け取る配当金等は、一般的には配当所得とされます。
この配当所得は、原則として他の総合課税(※1)扱いの所得と合算され、所得税・住民税が課税されます。ただし、特例として申告不要制度も設定されています。
平成21年1月1日以後に支払いを受ける上場株式等の配当所得の場合、総合課税によらず申告分離課税(※2)を選択が可能です。
ただし、申告する上場株式の配当等の全部は、総合課税または申告分離課税のいずれかに統一する必要があります。
一定の所得税、所得税・住民税は、配当等の支払いを受ける際に源泉徴収(※3)されます。
(※1)総合課税:利子所得、配当所得、事業所得、不動産所得、給与所得、譲渡所得、一時所得、雑所得と合算して税金を計算する制度です。
(※2)申告分離課税:分離課税とは、ある所得を他の所得と合算せず、別々にわけて課税し、確定申告によりその税額を納める制度です。
(※3)源泉徴収:給与・報酬・利子・配当・使用料等の支払う人が、それらを支払う際、所得税等の税金を差し引き、それを納付する制度です。なお、源泉徴収された税金は源泉徴収税と呼ばれます。
〇配当等の税率
配当金をはじめとした税率と課税方法については次の通りです(2014年1月1日~2037年12月31日)。
(1)上場株式の配当等(大口株主を除く株主)の税率・課税方法
源泉徴収税率 |
一律20.315%(所得税+復興特別所得税15.315%・住民税5%) |
課税方法 |
いずれか有利な課税方法を選択できます。
・総合課税 ・申告分離課税 ・申告不要(源泉徴収により課税関係が終了) |
(2)上場株式の配当等(大口株主)・未上場株式の配当等の税率・課税方法
大口株主とは、発行済株式の総数等の3/100以上に相当する数または金額の株式等を保有する個人株主を指します。
項目 | 少額配当等(※)の場合 | 少額配当等以外の場合 |
源泉徴収税率 | 一律20.42%(所得税+復興特別所得税) | 一律20.42%(所得税+復興特別所得税) |
課税方法 | ・総合課税
・申告不要 |
・総合課税 |
(※)少額配当等:1銘柄につき1回の配当金額が、10万円に配当計算期間の月数(最高12ヵ月)を乗じ、これを12で除して計算した金額以下が該当します。
1-3.配当金を受け取っていないのに課税?
前述の通り源泉徴収されるにしても、結構多くの税率が差し引かれていることはおわかりでしょう。
実際に配当金を受け取って利得があるのなら、納税の義務がある以上やむを得ないことです。
しかし、会社の株主が会社から配当金を受け取っていないにもかかわらず、受け取ったとみなされてしまう配当金も存在します。
それが、「みなし配当金」です。
これに関しては、株主は納得いかないかもしれませんが、次章ではこのみなし配当金について解説します。
2.みなし配当金とは
みなし配当金、どんなケースが課税対象になるのか非常に不安だ。
まずは、みなし配当金とは何かを詳しく知りたい・・・。
こちらでは、みなし配当金とは何か?みなし配当金の範囲について解説します。
2-1.みなし配当金とは
みなし配当とは、前述した通り、会社の株主が会社から配当金を受け取っていないにもかかわらず、受け取ったとみなされてしまう配当のことです。
みなし配当に該当するケースは、株式会社から、株主が出資した金額以外のお金または財産価値が、株主へ移っていくことがあげられます。
みなし配当は第1章で述べた「配当所得」となります。よって、支払った会社側に「源泉徴収」義務が発生します。
一方、株主側は金銭等を受け取ったので税金(所得税・住民税)がかかります。
なお、会社から受け取ったお金全部がみなし配当となるわけではなく、受け取った金銭は、「利益の払戻部分」と「資本の払戻部分」に分かれます。
資本の払戻部分は資本金等の額が該当します。一方、利益の払戻部分がみなし配当に該当することとなります。
2-2.みなし配当金の範囲
会社の株主等が次に掲げる事由によって、金銭その他の資産の交付を受けた範囲がみなし配当金へ該当します。
①その金銭等の合計額が、その法人の資本金等の額のうちで、②その交付の基因となった法人の株式等に対応する部分の金額を超えるとき、③その超える部分の金額がみなし配当金とされます。
- 合併
- 分割型分割
- 資本若しくは出資の減少又は解散による残余財産の分配
- 株式の消却
- 自己株式の取得
- 社員の退社又は脱退による持分の払戻し
みなし配当金が生じるケースは前記した通りです。しかし、この各ケースでも、例外としてみなし配当金が生じないケースもあります。
次項ではみなし配当金の生じないケースを説明します。
2-3.みなし配当金が生じるケース・生じないケース
みなし配当金が発生するケースは次の通りですが、例外も存在します。
こちらでは、みなし配当金が発生しないケースを取り上げます。
〇会社合併
会社合併とは、2つ以上の企業が1つの会社になることを指します。合併前のそれぞれの企業は消滅し、新会社が設立される場合、1つの企業が存続をして、他の企業は吸収される形になる場合とがあります。
こちらの場合にみなし配当金は発生しますが、例外もあります。
みなし配当金が発生しないケース⇒適格合併
合併の中で、合併時に法人税が課されない合併のことです。グループ内での合併と共同事業形成が要件です。
このケースでは、被合併法人の利益積立金額が合併法人に引き継がれるので、交付金銭等が生じません。よって、みなし配当金は発生しません。
〇分割型分割
会社分割で事業等を承継する会社が、会社分割を行う会社の株主へ、その対価として株式等を割り当てる会社分割を言います。
みなし配当金が発生しないケース⇒適格分割・分社型分割
(1)適格分割
税制上、分割前の帳簿価額を引き継ぎ、譲渡損益が繰延べされる会社分割のことです。
この分割の要件には、①企業グループ内の会社分割であること、②共同事業を行うための会社分割であることの2つがあります。
分割法人の利益積立金額が被分割法人に引き継がれるので、交付金銭等が生じません。よって、みなし配当金は発生しません。
(2)分社型分割
会社分割で事業等を承継する会社が、会社分割を行う会社へ、その対価として株式等を割り当てる会社分割を言います。
このケースでは分割を行う会社の株主へ、交付金銭等を支給するわけではありません。よって、みなし配当金は発生しません。
〇資本若しくは出資の減少又は解散による残余財産の分配
会社の財産が減少する資本金の払い戻し等では、みなし配当金は発生しますが、次のような場合は発生しません。
みなし配当金が発生しないケース⇒無償減資
無償減資は会社の財産は減少しない、形式的な減資のことです。会社の欠損金を填補し、再建を図るために利用される場合、株主に対して金銭等の交付が無いからです。
〇自己株式の取得
会社が発行した株式を、その会社の株主から買い取ることをいいます。
自己株式の取得は、一度、株主から調達した資金を株主へ払い戻す形になります。
つまり、株主にお金を払い戻すという点では、自己株式の取得は、株主へ配当金を支払うことと同じです。
一方で、みなし配当金が発生しないケースもあります。主に次のケースでは、配当に該当しません。
- 証券取引所等にて市場で株式を取得した場合
- 事業全てを譲り受けての取得の場合
- 合併や分割、現物出資による被合併法人等からの移転の場合
- 被合併法人の合併に反対する株主の買取請求権に応じ取得した場合
3.会社から出資の払い戻しを受けるケースについて
前述したみなし配当金が発生しないケースに該当しなければ、逆にみなし配当金が発生し、課税対象になるということか。
では、会社から出資の払い戻しを受けるケースで、みなし配当課税となる理由について詳しく知りたい・・・。
こちらでは、「自己株式の取得」、「資本剰余金から配当金が支払われた場合」、「会社の解散で残余財産が分配された」3点を解説します。
3-1.自己株式の取得
株式会社が自己株式の取得を行う理由としては、次のような目的が考えられます。
〇自己株式の取得を行う理由
(1)敵対的買収へ対抗するため
敵対的買収とは、買収者が、買収対象の会社に設立されている取締役会の同意を得ずに買収を仕掛けることを言います。
会社が敵対的買収に直面していたならば、市場や特定の株主から自己株式を取得して、敵対的買収を防止することができます。
自己株式を取得することにより、自社の持株比率が高まり自社の議決権比率を上げます。
そうすれば、買収をしかける方の会社の議決権比率を下げることにつながります。
(2)合併・買収時の支払対価として利用するため
合併・買収等を行う場合は、支払対価として自己株式を交付することができます。
新株発行と比較して、発行済株式数の増加が原因となる価値の希薄化、将来の配当負担、新株発行コスト等の増加を防ぐことが目的です。
(3)ストック・オプション制度への活用するため
ストック・オプションとは、企業の役員・従業員が、事前に定められた価額で、一定期間内に自社株式を購入できる権利を、報酬として与えられることを言います。
取得した自己株式を役員・従業員に付与すれば、上場したとき、株価が上昇したときに売却することができます。
(4)自社の株価低迷への対抗策として
自社の株価が過少評価されていると判断したならば、株主から自己株式を取得して、株価が実際よりも割安であるということを市場に対して、発信することが可能です。
また、自己株式を取得すれば、市場に流通している株式数が減少するので、株価上昇を目的とするケースも想定されます。
〇自己株式の取得を行う条件
自己株式を取得は、会社の都合でいきなり行って良いわけではなく、原則として株主総会決議を経なければなりません。
〇みなし配当課税の理由
経営者以外に小口の株主がいる場合には、会社が小口の株主から株式を買い取ります。
その際には、株式の評価額は通常、もともと出資した金額より高くなっているので、差額を配当したと同じであるとみなされ、みなし配当として所得税が課税されることになります。
3-2.資本剰余金から配当金が支払われた場合
一見すると、みなし配当というわけではなく通常の配当のように思われますが、次のような理由でみなし配当課税されることになります。
資本剰余金とは、株主から出資のうちで、一部を資本金に組み入れないまま保有していたお金です。
会社法ではこの資本剰余金を「配当金」とすることが認められています。一方、税法では「資本の払い戻し」と呼ばれています。
「配当金」であるにせよ、「資本の払い戻し」と呼ばれるにせよ、資本剰余金以外できちんと配当できる利益があるならば、資金剰余金から配当を出すのか、会社の利益の中から配当を出すか、厳密な区別は不要と言えます。
そのため、資本剰余金から配当金が支払われた場合でも、そのうち一定の金額に課税をすることが決められています。
3-3.会社の解散で残余財産が分配された
残余財産の分配された場合とは、会社が何らかの理由で解散する時、売掛金を回収し完了し、負債となっている買掛金や借金等を全て払い終えた上で、後に残った財産を株主に分配することを言います。
当然ながら、残余財産の中には株主が出資した分の価値も含まれています。
その価値に加えて、それまで会社が出してきた利益の価値も上乗せされます。
つまり、株主が残余財産の分配を受け取ることは、会社から最後の配当を受け取ったのと同じとみなされます。そのため、みなし配当所得として課税されることになります。
4.会社の組織再編で受け取るケースについて
会社から出資の払い戻しを受けるケースで、みなし配当課税となる理由はよくわかった。
では、会社の組織再編で受け取るケースで、みなし配当課税となる理由について詳しく知りたい・・・。
こちらでは、会社の組織替えでもみなし配当課税となる理由を解説します。
4-1.会社の組織替えでもみなし配当は発生
2つ以上の企業が1つの会社になることを指す「会社合併」、会社が特定の部門を他の会社に売り、その代わり相手の会社の株式を受け取る「会社分割」、このような会社の組織再編は良く行われています。
一見すれば株主とは関係なく、会社の都合で行っているような場合でも、株主が財物等を受け取れば、みなし配当課税の対象となります。
本章では、他社との「合併」があった場合と、「会社分割」した場合に分けて、みなし配当課税となる理由を解説します。
4-2.他社との「合併」があった場合
合併でよく使用される方法が、例えば甲社が乙社に吸収される形で合併する「吸収合併」です。
この吸収合併の事例を用いて、株主がみなし配当課税される理由を説明します。
(例)
- 甲社:吸収される側の会社
- 乙社:吸収する側の会社
- 甲社側の株主:吸収される側の会社の株主
吸収合併の場合は、通常、甲社側の株主は乙社から株式や金銭等を受け取る形になります。
甲社側の株主が受け取る株式や金銭等には、「株主が甲社に出資した分の価値+甲社が出してきた利益の価値」も存在します。
そのため、甲社側の株主が、乙社の株式・金銭等を受け取ることは、甲社から最後の配当を受け取ったのと同じとみなされます。
そのため、甲社側の株主はみなし配当に課税されることとなります。
4-3.「会社分割」した場合
会社分割では、例えば甲社が自社の1部門を乙社に売り、その代わり乙社の株式を受け取り、それを株主に配ることになります。
こちらも事例を用いて、株主がみなし配当課税される理由を説明します。
(例)
- 甲社:会社分割をする側の会社
- 乙社:甲社の特定の部門を買う側の会社
- 甲社側の株主:会社分割をする側の会社の株主
会社分割の場合、甲社側の株主は、甲社および乙社の株主を兼ねる形になります。
甲社側の株主が受け取った乙社の株式・金銭等は、甲社の財産価値の一部を売った代わりとなります。
つまり、甲社側の株主が受け取った株式・金銭等の中には、「株主が甲社に出資した分の価値+甲社が出してきた利益の一部の価値」も存在します。
そのため、甲社側の株主は、乙社の株式・金銭等を受け取ることで、甲社から配当を受け取ったのと同じとみなされます。
そのため、甲社側の株主はみなし配当に課税されることとなります。
5.みなし配当課税の計算について
みなし配当課税となるケース、確定申告の時に大慌てしないためにも、今のうちに把握しておきたいものだ。
その際に、課税対象となる金額の算定方法について詳細を知っておきたい・・・。
こちらでは、具体的な計算例をあげて解説します。
5-1.具体的な計算に必要な情報とは
みなし配当がどれくらいになるかは、次のような金額を考慮して算定されます。
- 株主が受け取った財産の金額:株式の売却代金が該当します。
- 資本金等の金額:資本金と資本剰余金等が該当します。株主が最初に出資した金額の合計です。
- 株式総数:未発行の自己株式等は含まれません。
- 株主の保有株式数:計算では実際に会社へ売った株式の数を当てはめます。
みなし配当金額の計算式は次の通りです。
株主が受け取った財産の金額-資本金等の金額/株式総数×株主の保有株式数
5-2.計算例
こちらでは事例を上げて計算してみます。
- 自己株式の取得(株主1名からの株式の買い取り)
- 資本金等の金額:2,000万円
- 株式総数:2,000株
- 会社が買取る株式数:200株
- 株主が受け取った財産の金額(株式売却代金):1,000万円
1,000万円(株式売却代金)-2,000万円(資本金等の金額)/2,000株(株式総数)×200株(会社が買取る株式数)=900万円(みなし配当金額)
みなし配当金額の900万円分が課税対象になります。
5-3.みなし配当計算方法の注意点
前述した事例は、自己株式の取得のケースでしたが、一見するとみなし配当計算方法は単純と言えなくもないです。
しかし、配当金を支払う会社側からしてみれば、みなし配当が発生するケースによっては、この計算を行う前に様々な計算を行う必要が出てきます。
〇資本剰余金から配当金が支払われた場合は厄介
第3章の「3-2.資本剰余金から配当金が支払われた場合」でも述べた、資本剰余金から配当金を支払うケースの場合は、計算が煩雑になります。
それは、資本剰余金だけでなく利益剰余金からも配当を出すことがあるからです。
ただし、資本剰余金からの配当金は、税法上、資本の払い戻しであるため、みなし配当として税務処理を行う必要があります。
この計算がかなり煩雑になってしまうおそれもあります。
〇組織再編の際に発生するみなし配当
会社合併・会社分割といった組織再編をする際に発生したみなし配当に関しては、株価を算定する際にかなりの手間がかかってしまいます。
特に非上場の会社の株式は、株価が算定されていない場合が多く、このようなケースの株価を算定するならば、当該会社を多角的に分析しておく必要があります。
〇みなし配当の計算等は専門家に任せるのが無難
配当金を支払う会社からみれば、資本剰余金や利益剰余金から配当を支払うケースや、組織再編をする際のみなし配当に関しては、とても素人では算定が難しい作業です。
そのため、税金について専門的な知識を有する税理士に相談・依頼して、みなし配当、それに関わる税務処理を行ってもらった方が良いでしょう。
6.みなし配当課税の配当控除と確定申告について
みなし配当の計算方法は、ケースによっては相当複雑になるようだ。会社側もなかなか大変だ。
では、配当控除の条件や計算方法、確定申告について詳細を知りたい・・・。
こちらでは、配当控除の条件・計算方法、確定申告の要否等について解説します。
6-1.配当控除の条件・計算方法
配当控除は、どんな申告方法でも適用されるわけではなく、確定申告の際、総合課税として申告することが条件となります。
配当控除の計算方法は下表を参考にしてください。
課税総所得金額等 |
1,000万円以下の場合 |
配当所得×10%
(証券投資信託の収益の分配:配当所得×5%) |
1,000万円を超える場合 |
・1,000万円までの部分→配当所得×10%(証券投資信託の収益の分配:配当所得×5%)
・1,000万円を超える部分→配当所得×5%(証券投資信託の収益の分配:配当所得×2.5%) |
6-2.確定申告の要否
確定申告とは、前年の1月1日~12月31日までの会計結果を、翌年の2月16日~3月15日に、ご自分の納税地を管轄する税務署へ申告することを言います。
配当金額に関しては、次のような基準で確定申告の要否が決まります。
〇確定申告が不要の場合
配当金額が10万円以下だったならば、原則として確定申告は必要ありません。それは、配当金が発生した時点で既に源泉徴収が行われているからです。
ただし、例えば株式で損失を被っているケースでは、配当金額が10万円以下でも確定申告を行うことにより、株式で発生した損失を配当金から差し引くことが可能です。
そのため、源泉徴収の段階で差し引かれている税金の一部または全額が戻ってくることも期待できます。
一方、配当金額が10万円以下でも、計算期間により1回で支払われる配当金が5万円を超える場合もあります。
この場合には、配当金額が10万円以下でも確定申告を行わなければならないので、注意しましょう。
〇確定申告が必要の場合
配当金額が10万円を超えたならば、源泉徴収されたうえで、それに加えて確定申告を行う必要があります。
この場合、配当所得として総合課税の方法に限定され、他の所得(給与または年金等)と合計されて課税されることになります。
累進課税(※)が適用されるので、所得総額によっては税額がかなり増加することもあるので注意しましょう。
またご自分が被扶養者であれば、この配当所得により扶養控除から外れてしまう原因にもなり得るため、被扶養者の方々は配当金額に注意を払いましょう。
なお、総合課税として申告すれば前述した配当控除を受けることができます。
(※)累進課税:租税を賦課する課税対象が増えれば増えるほど、より高い税率を課する課税方式のことを言います。
6-3.支払調書とは
みなし配当における支払調書は、正確には「配当等とみなす金額に関する支払調書」と呼ばれています。
支払調書とは法定調書の一種です。みなし配当をはじめとした支払いを行った会社(事業者)が、その支払いの明細を記載したうえで税務署に提出します。
この支払調書は支払いを受けた人(株主)がちゃんと申告しているかどうか、税務署が照合するために利用します。
会社(事業者)は、同時に株主に対しても支払調書を送付しますが、税務署に提出する場合と違い、法的な義務ではなく、ある種の慣習として送付が行われています。
7.まとめ
配当金が多くもらえることは株主にとってうれしいことですが、課税金額もそれだけ大きくなります。
申告の際に、うっかり記載ミスや記載漏れがあれば、後日、税務署から指摘されることもあるでしょう。
配当金を受け取る側の株主であっても、みなし配当金等に関して不明な点がある時には、自分一人で考えるだけでは答えが出ないこともあるでしょう。
その場合には、税金の専門家である税理士に相談や依頼をして、正確な申告書の作成を心がけましょう。