スポーツ振興センターとは、日本国内のスポーツ振興を目的とする独立行政法人です。この法人は、数々のスポーツ振興や助成活動の他、「災害共済給付」を運営しています。
ただし、この共済は個人の加入者が契約を締結できるわけではありません。災害共済給付を受けるには、スポーツ振興センターと学校の設置者との間において、災害共済給付契約を締結することが必要です。
更に学校の設置者が加入したいとき、単独で加入することはできず、生徒の保護者の同意が必要となります。
教育委員会・学校法人単位で加入するため、一般の方々には余りなじみのない共済給付制度と言えます。
しかし、こちらに加入すれば、生徒が学校の管理下で「ケガ」等をしたとき、 保護者の方々に対して手厚い給付金が下ります。
そこで今回は、スポーツ振興センターの災害共済給付の特徴について解説します。この記事を読めば、災害共済給付の基本的な知識と、その加入方法・給付金の請求方法が良くおわかりになることでしょう。
1.スポーツ振興センターについて
私の子供は現在中学校に通っている。部活動は野球部に入っているがやはりケガは心配である。
スポーツ振興センターで「災害共済給付」という制度があると聞いた、一体どんな共済なのだろう?
まずは、スポーツ振興センターとはどんな組織なのか詳細を知りたい・・・。
こちらでは、スポーツ振興センターとはどんな団体か?その業務等について解説します。
1-1.スポーツ振興センターとは
スポーツ振興センターとは、わが国のスポーツ振興団体で、文部科学省の中期目標管理法人(※)として設立された独立行政法人です。
2003年10月1日に、日本体育・学校健康センターの業務等を承継する形で設立されました。
この法人の設立の目的は国民の健康増進です。主な業務は国立競技場の運営、スポーツ科学の調査研究、スポーツ振興くじ(toto)の実施等の「スポーツ関連事業」、災害共済給付制度の運営、学校における安全・健康保持の普及等「学校関連事業」の2種類があります。
(※)中期目標管理法人:公共上の事務の中で、その特性上、一定の自主性・自律性を発揮しながら、中期的(3~5年)な視点にたって執行することが求められるものを取り扱う法人です。この法人自体が目標を設定するわけではなく、国が定めた業務運営の目標を達成するための計画に基づき事業が運営されます。
1-2.スポーツ振興センターの業務
スポーツ振興センターは、スポーツ関連事業・学校関連事業を主な業務として行っています。
具体的な次のような業務が行われています。
- スポーツ施設の運営とその普及・振興:国立代々木競技場、秩父宮ラグビー場等のスポーツ施設の管理・運営を行っています。
- 国際競技力向上のための研究・支援等:国内外のスポーツ研究機関等と連携し、スポーツ医科学研究、科学的トレーニング環境の提供、各種スポーツ資源の開発等を行っています。
- スポーツ振興投票等業務:スポーツ振興で必要な資金を得るため、スポーツくじ(toto・BIG)の販売・払戻業務等を行っています。
- 日本のスポーツ情報機能の強化:スポーツ基本法・スポーツ基本計画の趣旨に則り、国内外の情報を統合・分析・検証します。
- スポーツ博物館・図書館の管理・運営:(現在、長期休館中)
- 受託業務:スポーツ国際展開基盤形成事業や学校における体育活動で、事故防止対策推進事業等の分析・調査・研究を受託しています。
- 災害共済給付・学校安全支援業務:学校教育の円滑な実施に資するため、学校管理下の児童生徒等の災害へ、災害共済給付を行っています。
- スポーツ・インテグリティの保護・強化:スポーツの誠実性・健全性・高潔性を守る取組が実施されています。
- スポーツ振興のための助成:スポーツ環境の整備・充実や普及・振興を図るため、各地域の助成を行っています。
- 登山の指導者養成・調査研究:国立登山研修所を運営・管理し、登山指導者養成の研修訓練・調査研究を行い登山事故防止に努めています。
- 関係機関との連携・協働:「JAPAN SPORT NETWORK」等による関係機関との連携・協働ネットワークの構築を行っています。
1-3.災害共済給付の運営も重要な役割の一つ
スポーツ振興センターでは、学校管理下の災害により児童が疾病・ケガ・死亡をした場合、その医療費、障害見舞金または死亡見舞金の支給を行うことも重要な役割と位置付けています。
そのための給付が「災害共済給付」という制度です。ただし、こちらは児童の保護者が万一の事態に備え、個人でスポーツ振興センターと共済契約を締結するわけではありません。
次章以降では、この災害共済給付の特徴と、通常の保険契約・共済契約とは異なる加入方法および給付金(見舞金)の請求方法について解説していきます。
2.スポーツ振興センターの災害共済給付について
災害共済給付はどうやら、通常の個人の保険契約とは大分違う形で加入しなければならないようだ。
では、災害共済給付の特徴について詳細を知りたい・・・・。
第2章では、災害共済給付とは何か?給付対象となる災害の範囲・給付金額等を解説します。
2-1.災害共済給付とは
災害共済給付は、スポーツ振興センターと各学校設置者とが契約を締結し、学校等の管理下で児童・生徒等が負傷、疾病、障害または死亡した場合、その医療費、障害見舞金または死亡見舞金の支給を行う制度です。
そのため、この共済給付を利用するには個人ではなく、学校の設置者(教育委員会・学校法人)が加入契約を締結しなければなりません。
当然のことながら、各学校の校長も独断で契約を締結することはできないので注意が必要です。
また、「学校等の管理下」とは次のようなケースが該当します。
- 教育課程に基づく授業中(保育所等の保育中含む)
- 部活動等の課外指導中
- 休憩時間中(始業前、放課後含む)
- 通学・通園中 等
2-2.災害共済給付契約の対象となる教育機関
災害共済給付の契約対象となる教育機関の種類は、次のとおりです。なお、国立、公立、私立の別は問われません。
- 義務教育学校:小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程が該当します。特別支援学校(盲学校、聾学校、養護学校)の小学部・中学部も含まれます。
- 高等学校:全日制、定時制、通信制が該当します。また、中等教育学校の後期課程・特別支援学校の高等部も含まれます。
- 高等専門学校
- 幼稚園:特別支援学校の幼稚部、幼稚園型認定こども園の幼稚園部分が該当します。
- 幼保連携型認定こども園
- 高等専修学校:昼間学科、夜間等学科、通信制学科が該当します。
- 保育所等:保育所(児童福祉法第39条)、保育所型認定こども園、幼稚園型認定こども園(保育機能施設部分)、地方裁量型認定こども園、特定保育事業(児童福祉法第6条の3「家庭的保育事業」、「小規模保育事業」、「事業所内保育事業」)を行う施設、一定の基準を満たす認可外保育施設・企業主導型保育施設
2-3.給付対象となる災害の範囲・給付金額
医療費、障害見舞金または死亡見舞金の支給については、災害の範囲によって、給付金額が次のように異なります。
〇医療費
(1)給付金額
公的医療保険並の療養に要する費用でその金額の4/10(その内1/10は、療養に伴い要する費用として加算される分)が、対象児童の保護者に給付されます。
例えば、医療費総額が12,000円かかったとき、スポーツ振興センターは12,000円×4/10=4,800円を給付します。
ただし、高額療養費の対象となる場合は、自己負担額に、療養に要する費用の額の1/10を加算した額となります。また、入院時食事療養費の標準負担額があるときは、その額を加算した金額も対象となります。
(2)災害の種類・範囲
次のように細かく規定されています。
①負傷
負傷の原因が学校管理下で生じ、療養に要する費用の額が5,000円以上
②疾病
疾病の原因が学校管理下で生じ、療養に要する費用の額が5,000円以上、文部科学省令で定める次の場合
- 学校給食等による中毒
- ガス等による中毒
- 熱中症
- 溺水
- 異物の嚥下又は迷入による疾病
- 漆等による皮膚炎
- 外部衝撃等による疾病
- 負傷による疾病
〇障害見舞金
(1)給付金額
障害等級によって3,770万円~82万円が災害共済給付から下ります。なお、通学・通園中の災害の場合は、1,885万円~41万円となります。障害等級についてはこちらを参照してください。
(2)災害の範囲
学校管理下の負傷と前記した疾病が治った後に残った障害で、その程度が1級~14級に区分されます。
〇死亡見舞金
対象児童の死因によって災害共済給付額が異なります。
- 学校管理下で発生した事件に起因した死亡、前記した疾病に直接起因した死亡の場合→2,800万円(通学・通園中:1,400万円)
- 運動などの行為に起因した突然死の場合→2,800万円(通学・通園中:1,400万円)
- 運動などの行為と関連のない突然死の場合→1,400万円(通学・通園中も同額)
3.災害共済給付の加入方法・その1
スポーツに関連する授業や部活動はどこの学校でも行っている。また通学の災害も給付対象なのは心強い。
この災害共済給付へ加入するにはどうすれば良いのだろう・・・・?
第3章では、共済掛金および災害共済給付に加入する方法を解説します。
3-1.共済掛金額は非常に安い!
平成30年度の児童生徒等1人分の共済掛金額(年額)は、下表の通りです。
学校 | 児童生徒等 |
義務教育諸学校 |
920円(沖縄県:460円) 要保護児童生徒(※)は40円 (沖縄県:20円) |
高等学校・高等専修学校(全日制) | 1,840円 (沖縄県:920円) |
高等学校・高等専修学校(定時制) | 980円 (沖縄県:490円) |
高等学校・高等専修学校(通信制) | 280円 (沖縄県:140円) |
高等専門学校 | 1,880円 (沖縄県:940円) |
幼稚園 | 270円 (沖縄県:135円) |
幼保連携型認定こども園 | 270円 (沖縄県:135円) |
保育所等 |
350円 (沖縄県:175円) 要保護児童生徒は40円 (沖縄県:20円) |
表を見てもわかる通り、沖縄県の場合は更に共済掛金が半額となっています。
共済掛金の保護者の負担割合は、義務教育諸学校ならば4割~6割、その他の学校なら6割~9割となります。なお、残りの金額は学校の設置者が負担します。
(※)要保護児童生徒:生活保護世帯に属する義務教育諸学校、保育所等の児童生徒が該当します。生活保護には医療扶助があるので、障害見舞金、死亡見舞金のみが支給対象となります。
3-2.災害共済給付に加入するには
災害共済給付に加入する場合は、学校設置者が保護者等の同意を得た上で、スポーツ振興センターと災害共済給付契約を締結します。
学校設置者には学校法人(私立学校)の他、地方公共団体(公立学校)が含まれます。当然のことながら、地方公共団体もスポーツ振興センターの取り決めに従い契約することとなります。
共済掛金(保護者・設置者が負担)を払い込み、共済給付を継続することになります。なお、毎年契約を更新する必要があります。
なお、災害共済給付契約の締結を行う前、法令上、学校設置者が児童生徒等の保護者の同意を得ることと明記されています。
同意を得る方法は、特に法定されているわけではありません。学校設置者側の用意した同意書に、保護者から記載してもらうことが一般的です。
3-3.大まかな手続きの流れ
学校設置者が災害共済給付への加入を決めたら、災害共済給付契約の締結(更新の場合は加入児童生徒等の名簿更新)、共済掛金の支払期限は、毎年度5月31日となります。
新規契約の大まかな手順としては次の通りです。
- 学校設置者は各学校を通じ、保護者の同意を確認
- 保護者は加入同意書を記載して子の通学先の学校へ提出
- 学校は5月1日に加入者数を学校設置者へ報告
- 学校設置者は契約申込書・契約書・共済掛金支払明細書等を作成し、スポーツ振興センターへ提出
- 各学校を通じて保護者から受け取った掛金を、5月31日までにスポーツ振興センターへ支払う
一方、更新契約の大まかな手順としては次の通りです。
- 学校設置者は各学校を通じ、保護者の同意を確認
- 保護者は加入同意書を記載して子の通学先の学校へ提出
- 学校は5月1日に加入者数を学校設置者へ報告
- 学校設置者は名簿更新書・共済掛金支払明細書等を作成し、スポーツ振興センターへ提出
- 各学校を通じて保護者から受け取った掛金で、5月31日までにスポーツ振興センターへ支払う
4.災害共済給付の加入・その2
もしも、学校(学校設置者)から災害共済給付への同意者が通知されたら、是非同意したい。
契約申込の際、保護者が行わなければならないことは他にあるのだろうか・・・?
こちらでは、契約申込手続きの流れや必要書類等について解説します。
4-1.加入は保護者等の同意が必要
保護者個人では、災害共済給付の加入ができないため、学校から同意書等通知されてきたら、その書類に記載することが必要です。
保護者側はこの同意書に記載して共済掛金を納付すれば、基本的に後は何もすることがありません。
一方、学校設置者側はどんな同意書を作成して保護者側へ提出すればよいか、悩むところではあります。
基本的に次の事項は明記する必要があります。
- 給付の対象となる災害の範囲と給付金額
- 給付に関する注意事項
- 共済掛金(年額)
スポーツ振興センターでは、加入同意書参考例をホームページで掲示しているので、こちらを参考にしてください。
4-2.契約申込手続きの流れ
契約申込手続きを希望する場合、学校設置者側は次のような手順で行います。
(1)災害共済給付契約に関する問い合わせ |
まずはスポーツ振興センターの各地域の担当課へ問い合わせましょう。各地域の担当課はこちらの一覧で確認してください。
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(2)事前確認書類の発送と返送 |
各地域の担当課へ連絡後、事前確認書類が送付されるので必要事項を記載し返送します。
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(3)事前確認書類の登録・契約申込関係書類を送付 |
返送された事前確認書類をスポーツ振興センターで確認し、学校設置者情報の登録を行います。その後、契約申込関係書類が学校設置者側へ送付されます。
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(4)契約申込関係書類の返送 |
学校設置者側へ契約申込関係書類が送付されたら、必要事項を記載し、スポーツ振興センターへ返送します。
⇓
(5)掛金を振込 |
共済掛金を原則として5月31日までに振り込みます。共済掛金が期限内に支払われると、当該年度の4月1日以降に発生した災害から、給付対象となります。
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(6)契約完了 |
スポーツ振興センターから契約書、各種マニュアル、IDが送付されます。
4-3.契約申込手続きの必要書類
申込の際の必要書類は基本的に次の通りです。
〇保護者
学校(学校設置者)から受け取った同意書に内容を記載するだけでOKです。送付した学校が期日を定めている場合は、期日内に学校へ提出しましょう。
〇学校設置者
学校設置者側は、事前確認書類や契約申込関係書類等、様々な書類を記載する必要があります。
また、各学校に要保護児童生徒がいる場合は、「要保護児童生徒名簿」の提出が必要です。
こちらの用紙はスポーツ振興センターのホームぺージから取得できます。
5.災害共済給付の給付金請求・その1
災害共済給付へ加入後、私の子が学校の従業や部活中にケガをした場合は、どのように給付請求をすれば良いのだろう?
請求手続きについて詳細を知りたい・・・。
こちらでは、給付請求の流れとその注意点を解説します。
5-1.請求はこうする!
不運にも学校管理下で、児童が負傷・疾病・死亡等に至った場合は、給付金支払請求を学校設置者からスポーツ振興センター(各地域の給付担当課)に対して行います。
給付金はスポーツ振興センター(各地域の給付担当課)から、学校設置者を経由し児童生徒等の保護者へ支払われます。
また、保護者側も学校設置者を経由してスポーツ振興センターへ、給付金の支払請求をすることが可能です。
この給付金の支払請求は、医療費・障害見舞金の場合、毎月10日までに前月分を行い、死亡見舞金はその都度行うことになります。
給付金の支払請求の時効は、それぞれ次のようになります。
- 医療費:支給期間は初診から最長10年間となります。こちらは、同一の負傷または疾病に係る医療費の月毎、翌月10日の翌日(つまり11日)から起算して2年以内に請求を行わない場合、時効となってしまいます。
- 障害見舞金:負傷または疾病が治った日の属する翌月10日の翌日(つまり11日)から起算して2年以内に請求を行わない場合、時効となってしまいます。
- 死亡見舞金:対象児童が死亡した日の翌日から起算して2年以内に請求を行わない場合、時効となってしまいます。
5-2.請求手続きの流れ
次の手順で医療機関への手続きを行うことになります。当然ながら、保護者もこの手続きに協力しなければなりません。
また、給付金の支給までには約3ヶ月程度かかります。できるだけ速やかに手続きが完了できるよう、保護者・学校・学校設置者の協力が不可欠です。
(1)災害発生 |
児童が学校管理下で負傷・疾病したら医療機関で診療を受けます。
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(2)医療機関で診療、「医療等の状況(医療費の証明)」を取得[保護者] |
まずは医療機関で診療を受けることが第一です。保護者は「医療等の状況(医療費の証明)」という書類を学校の先生から取得します。
なお、医療機関外の薬局で薬を処方された場合、「調剤報酬明細書」が必要です。
⇓
(3)保護者が医療機関から証明を受ける[保護者] |
受け取った医療等の状況を医療機関へ提出し、その用紙にかかった医療費を証明してもらいます。
なお、医療等の状況への証明は、医師、歯科医師、薬剤師、柔道整復師が行う必要があります。
⇓
(4)保護者は医療等の状況を学校側へ提出[保護者] |
保護者は証明された医療等の状況を、児童が通学している学校へ提出します。
⇓
(5)学校は保護者から医療等の状況を受け取り、書類を設置者へ提出[学校] |
学校側は保護者から医療等の状況を受け取り確認後、災害報告書と共に学校設置者へ提出します。
⇓
(6)学校設置者は学校から書類を受け取り、スポーツ振興センターへ提出[学校設置者] |
学校設置者は学校から受け取った書類を確認後、医療等の状況・災害報告書・請求書と共にスポーツ振興センターへ提出します。
⇓
(7)スポーツ振興センターは提出された書類を受付、審査、支給・不支給を決定[スポーツ振興センター] |
学校設置者から送付された書類を受付、その内容を審査します。その後、支給・不支給を決定します。
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(8)スポーツ振興センターは学校設置者を経由し、保護者へ給付金を支給[スポーツ振興センター] |
給付金を支給する際は支払い通知も行われます。
5-3.請求の際はここに注意!
災害共済給付は、残念ながら次のようなケースで給付の全部または一部が行われないことになります。
- 自動車交通事故のような第三者の加害行為による場合、その加害者から損害賠償を受けた
- 他の法令の規定で給付等を受けられる場合
- 地震、津波や洪水等で一度に大勢の児童生徒が被災し、給付金の支払が困難な場合
- 高等学校または高等専修学校の生徒、高等専門学校の学生が故意に死亡(自殺等)した場合
しかし、高等学校または高等専修学校の生徒、高等専門学校の学生による自殺を一律で給付対象外とするのは、その自殺へ至った原因を考慮すると、著しくご遺族の感情を無視する結果となる場合があります。
そのため、いじめ、体罰、その他亡くなった高校生等の責めに帰することができない理由で生じた、強い心理的な負担が原因だった場合、災害共済給付の対象となります。
ただし、この自殺のような故意に生徒が死亡した災害は、平成28年4月1日以後のケースで給付対象とされます。
また、バイク等の通学におけるスピード違反等で発生した生徒の重過失による災害の場合、その給付を減額して実施されることになります。
6.災害共済給付の給付金請求・その2
給付請求の際に提出する書類は、一部保護者が協力しなければいけないことはわかった。
では、主な提出書類の種類について知りたい・・・。
第6章では、主な提出書類である「災害報告書」と「医療等の状況」等について解説します。
6-1.「災害報告書」とは
災害報告書に関して、保護者が作成する必要はなく、学校(保育所等)側が作成することになります。
〇災害報告書の種類
この災害報告書は3種類があります。
- 災害報告書・別紙1(1):義務教育諸学校、高等学校、高等専門学校、高等専修学校にて児童生徒等へ災害が発生した場合、その事実を学校長が証明する書類です。
- 災害報告書・別紙1(2):幼稚園、幼保連携型認定こども園、保育所等の幼児へ災害が発生した場合、その事実を園長または所長が証明する書類です。
- 災害継続報告書・別紙2:第2回目以降の医療費請求の場合、初回で報告した災害の医療等が継続中であることを、学校長等が証明する書類です。
〇災害報告書の注意点
災害報告書には災害が発生した時の、日時・状況を明確に記載しなければなりません。
こちらでは①災害発生年月日が正確に記載されているか、②災害発生の状況で、
- いつ
- どこで
- 何をしていて
- 身体のどの部分か
を明記されていることが必要です。更に、保護者から受け取った医療等の状況に記載されている受傷部位と一致しているか、しっかり確認する必要があります。
6-2.「医療等の状況」とは
医療等の状況では、保護者が学校の先生から取得し、医師により医療費および受傷部位を証明してもらうことが必要です。
〇医療等の状況の種類
この医療等の状況の用紙は6種類があります。用紙を間違わないように注意しましょう。
(1)公的医療保険に基づく療養を受けた場合
- 医療等の状況・別紙3(1):健康保険、国民健康保険、健康保険組合、共済組合等の公的保険が適用される療養を受けた場合、医療機関から傷病名、医療費(診療報酬点数)等を証明してもらう書類です。
(2)公的医療保険に基づく療養を受られなかった場合
こちらは、生徒が遠足・修学旅行先で傷病を負い、医療保険者証を提示できない場合等、公的医療保険適用外の療養を受けたとき、次の区分に応じ医師から証明してもらう書類です。
- 医療等の状況・別紙3(2)(ア):入院した分を医師に証明してもらう書類です。
- 医療等の状況・別紙3(2)(イ):入院外の分を医師に証明してもらう書類です。
- 医療等の状況・別紙3(2)(ウ):治療を歯科医師に証明してもらう書類です。
(3)柔道整復師の施術を受けた場合
- 医療等の状況・別紙3(3):施術料を柔道整復師から証明してもらう書類です。
(4)はり師・きゅう師の施術を受けた場合
- 医療等の状況・別紙3(4):施術料をはり師・きゅう師に証明してもらう書類です。
このように、治療について公的な健康保険が適用されなかったり、医療保険者証を持参していなかったりした場合でも、給付対象となります。
〇医療等の状況の注意点
医療等の状況では、5,000円(500点)以上の請求から給付対象となるので、保護者は子の傷病に係る初診~治癒までの間の医療費総額を確認しましょう。
また、治療上必要な装具や薬を購入した場合は、その費用を証明する書類が必要です。必要な書類用紙に関しては、スポーツ振興センターのホームぺージから取得できます。
6-3.高額療養となった場合
子にかかった1か月の医療費が、70,000円(7,000点)以上になった場合は、通常の提出書類の他「高額療養状況の届」が必要となります。
こちらの書類も、保護者が記載することになります。また、高額療養状況の届の他、国民健康保険に加入している場合は、市区町村役場が発行する「所得課税証明書」を添付します。
一方、国民健康保険以外に加入している場合は、高額療養状況の届の下部の「標準報酬月額等に関する証明」を、事業所担当者から記載してもらいましょう。
7.まとめ
スポーツ振興センターの災害共済給付制度は、公的な健康保険が適用されない自由診療の場合でも給付対象となります。
個人では保険契約できませんが、学校管理下でおきた災害を幅広く金銭的にカバーできます。
ただし、学校設置者の判断で加入するかどうかが判断されるので、設置者である教育員会や学校法人任せにすることへ、不安を感じることもあるでしょう。
そんな時は、こどもの病気やケガを保障する「こども保険」が各保険会社から販売されています。
また、条件は各市区町村でバラバラなのは難点ですが「こども医療費助成制度」も利用できます。
災害共済給付の他に、民間の保険や公的な助成制度で子の医療費を賄うことも検討した方が良いでしょう。