民間の保険は本当にいらないの?我が国の公的制度を通してズバリ解説!

日本は世界的にみても優れた医療体制が整った医療先進国です。また、公的医療保険制度も非常に充実しています。

健康保険や国民健康保険等に加入している人ならば、保険診療の際に医療費の3割を自己負担するだけで質の高い医療を受けることができます。

更に3割の自己負担分でも患者にとって重い負担になれば、高額療養費制度の活用で自己負担分を超えた医療費が戻ってきます。

また、児童・高齢者に対する医療費の公的給付や助成が利用でき、安心して医療行為を受けることが可能です。

このような医療保障の充実で、民間の医療保険やがん保険は不要なのではないか、という意見も根強くあります。

生命保険の場合は、相続の問題や日本人の葬儀・告別式への意識やスタイルも変化し、死亡保険金で多額のお金を遺族に残すことに疑問が持たれていることも事実です。

そこで今回は、公的な医療制度や公的助成制度、日本人の変わりゆく習慣を通して民間保険商品の必要性の有無を解説します。

この記事を読めば、我が国の公的な医療に関する進んだ各制度や、これらの制度があっても民間の保険商品が必要なケースを理解することに役立つはずです。

1.民間の保険について

生命保険会社や共済では数多くの保険商品が販売されている。しかし、一方で民間保険はいらないという意見もある。

まずは民間保険の特徴について知りたい・・・。

こちらでは、民間保険の特徴と役割について解説します。

1-1.民間保険は多種多様

生命保険会社や共済から販売されている商品は非常に豊富で、TVのCMやネット、郵便受けに入っているチラシ等でも我々は見聞きしています。

まさかの死亡・高度障害状態に備える「死亡保険(生命保険)」、保険期間中に死亡したら死亡保険金が下り、満期まで生存していたら満期保険金が受けとれる「養老保険」、医療保障を約束する「医療保険」や、がんに特化した「がん保険」等と非常に種類が多いです。

保障内容も各保険会社でよく工夫されており、現在の医療技術や現状に見合った新商品がドンドン登場しています。

1-2.民間保険はあくまで任意保険

民間保険はオーソドックスな保障内容や、個性的な保障内容の商品もありバラエティに富んでいますが、必ず加入しなければならない保険ではありません。

自動車の自賠責保険のように各保険会社が扱っていて、強制加入となり得る商品は、「人」を対象とした保険商品に存在しません。

あくまで加入するかどうかは、ご自分や家族次第であり、民間の生命保険や医療保険等に加入しないからといって、ペナルティが課せられることはありません。

1-3.保険の主役はあくまで公的制度?

人の病気やケガに関して、我が国では「公的医療保険制度」が存在します。

この公的医療保険には、原則として強制加入となります。つまり、我々は健康保険や国民健康保険等のいずれかの公的保険に必ず加入しなければならないのです。

これらの公的保険に加入したうえで、公的保険の内容に不満があったり、より手厚い保障を受けたりしたい場合、民間の保険へ加入することが選択肢の一つとなります。

つまり、民間の保険は「公的保険を保管する役割」といえるでしょう。

2.医療保障を考える

強制加入である公的医療保険、世界に類を見ない公的な医療保障と評価されているようだ。

この的医療保険の特徴も知りたい・・・。

こちらでは的医療保険の特徴や補償範囲等について解説します。

2-1.公的医療保険について

我が国の公的医療保険制度は「国民皆保険」と呼ばれ、次の要件に該当するならば、何らかの形で公的医療保険へ加入しなければなりません。

  • 原則として日本国内に住所を有する国民の方々
  • 1年以上の在留資格があり日本国内に居住する外国人の方々

公的医療保険制度には、給与所得者・被扶養者が加入する「健康保険(被用者保険)」と、それ以外の人が加入する「国民健康保険」があります。

この公的保険に加入していれば、被保険者が支払う医療費の自己負担額は原則として3割となります。

2-2.適用範囲は広い!

公的医療保険が適用される保険診療の範囲は幅広く、患者はどの医療機関でも全国一律料金で受診が可能です。

保険診療の料金は法定されており、医療機関側で自由に金額を設定することは認められていません。

そのため、費用がどれ位かかるか患者側も把握しやすく、安心して治療を受けられます。

保険診療の内容は主に次の通りです。

  • 診療:患者が医療機関で、医師により行われる診察・検査・画像診断等が該当します。また、医師の判断で緊急に患者宅へ赴き診療を行う「往診」も含まれます。
  • 医薬品支給:医師から処方箋を取得し、保険薬局で医薬品を受け取ります。
  • 物品支給:患者の治療に使用されるガーゼや包帯等の給付が該当します。なお、骨折治療の際に使用する松葉杖等は医療機関より貸与される物品です。
  • 治療:医師により患者の治療に必要と判断された処置や手術、注射、リハビリテーション、精神科療法等が対象です。
  • 入院:医師から患者の入院治療・看護が必要と判断され、いわゆる「大部屋」を患者が使用した場合に該当します。
  • 在宅療養:医師により患者が患者宅で継続した治療の必要を認めた場合に対象となります。

2-3.高齢者に対する制度も充実

我が国の公的医療保険制度では、一定の年齢になると加入する公的な健康保険制度もあります。

それが、「前期高齢者医療制度(対象65歳~74歳まで)」と、「後期高齢者医療制度(対象75歳~)」です。

65〜74歳までの高齢者(前期高齢者)の方々の場合、0〜64歳の人達と同じ公的保険へ加入を継続することになり、保険者間にて医療保障に関する負担軽減の調整が行われます。

70歳以上になった人は「健康保険高齢受給者証」の交付対象となり、医療機関窓口に健康被保険者証と合わせて提示することで、医療費が原則として2割の自己負担に抑えられます。

その後、75歳以上の高齢者になると「後期高齢者医療制度」が利用でき、保険者より交付された後期高齢者医療被保険者証を医療機関窓口へ提示すれば、医療費が原則として1割自己負担になる等、更なる手厚い保障が行われます。

3.高額療養費制度について

我が国の公的医療保険制度は非常に充実している。高齢者になっても医療費の重い金銭的負担に悩むことは無いようだ。

しかし、かかる医療費自体が高額なら、原則として患者負担3割と言ってもそれなりの金額になってしまうと思うが。

患者の自己負担分が重くなってしまった場合の措置は何かあるのだろうか?

実は重い自己負担額を賄う公的給付制度があります。

こちらでは、高額療養費制度とは何か?この制度の特徴等を解説します。

3-1.高額療養費制度とは

前述した公的医療保険制度は原則として3割自己負担となります。7割が保険給付で賄われるわけですが、医療費自体が高額になると、3割自己負担といえども患者にとって重い負担となることがあります。

医療機関での手術等の医療費は保険診療に該当することが多いものの、時に100万円を超える医療費となる場合もあります。

そうなると、3割負担といっても30万円を支払うことになり、現在貯蓄が十分にない人・低所得者の方々には重い負担といえるでしょう。

しかし、この重い負担となった際に役立つ公的制度が存在します。それが「高額療養費制度」です。

高額療養費制度は、患者が1ヶ月にかかった医療費の内、自己負担限度額分を超えていたなら、その差額が戻ってくる制度です。

この制度を利用する際に、特別な加入条件はありません。公的医療保険に加入している人なら誰でも利用可能です。

3-2.自己負担限度額

自己負担限度額(70歳未満)は、各世帯の所得によって決められています。

所得に応じた区分は次の通りです(厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ 平成30年8月診療分から」を参考に作成)。

区分ア 年収:約1,160万円以上
[1.健康保険・国民健康保険]

①健康保険:標準報酬月額(※1)83万円以上

②国民健康保険:旧ただし書き所得(※2)901万円超

[2.ひと月の自己負担限度額(世帯毎)]

252,600円+(総医療費-842,000円)×1%

(※1)標準報酬月額:報酬額区分により設定された金額です。給与等(4~6月分)の支給額平均を基準として決定されます。

(※2)旧ただし書き所得:住民税賦課方式に関する条文(旧地方税法)の「ただし書き」に定められた算出方法で計算した所得です。

区分イ 年収:約770~1,160万円
[1.健康保険・国民健康保険]

①健康保険:標準報酬月額53万円~79万円

②国民健康保険:旧ただし書き所得600万円~901万円以下

[2.ひと月の自己負担限度額(世帯毎)]

167,400円+(総医療費-558,000円)×1%

区分ウ 年収:約370~770万円
[1.健康保険・国民健康保険]

①健康保険:標準報酬月額28万円~50万円

②国民健康保険:旧ただし書き所得210万円~600万円以下

[2.ひと月の自己負担限度額(世帯毎)]

80,100円+(総医療費-267,000円)×1%

区分エ 年収:約370万円以下
[1.健康保険・国民健康保険]

①健康保険:標準報酬月額26万円以下

②国民健康保険:旧ただし書き所得210万円以下

[2.ひと月の自己負担限度額(世帯毎)]

57,600円

区分オ 年収:市区町村民税非課税
[ひと月の自己負担限度額(世帯毎)]

35,400円

3-3.高額療養費制度の注意点

高額療養費制度には次のような注意点があります。

〇事前または事後の申請が必要

高額療養費制度は患者側から利用の申請を行う必要があります。事前申請(限度額適用認定申請)の場合は、申請を行えばあらかじめ1ヶ月分の自己負担限度額にまで支払う医療費が軽減されます。

また、事後申請の場合はいったん3割自己負担分の全額を支払った後に申請します。

申請手続きについては、ご自分が加入している公的保険の保険者(健康保険:協会けんぽ・各健康保険組合、国民健康保険:市町村)の指示に従い、必要書類の提出等を行うようにしましょう。

〇保険者により異なる対応

国民健康保険の場合なら、支払った医療費に高額療養費制度が利用できる旨の通知がご自宅に送付されてきます。この指示に従い事後申請をしましょう。

健康保険の場合は、実は加入している健康保険組合によって対応に差があります。

健康保険組合の中には、医療機関等から提出された「診療報酬明細書(レセプト)」をもとに、自動的に高額療養費を払い戻してくれるところもあります。

しかし、高額療養費の対象となっていても送付の通知を行わず、ご自分で費用を計算して健康保険組合に申請しなければならないケースも存在します。

ご自分の加入している健康保険組合が、高額療養費に関してどんな対応をとるのか事前に確認しておきましょう。

4.公的な助成制度について

高齢者の医療保障に手厚く、自己負担限度額を超えた時の高額療養費制度も非常に頼りになる。

しかし、出産等の場合、正常分娩では公的医療保険が適用されないと聞いた。出産に関しての給付制度は何かあるのだろうか?

また、病気やケガをしやすいのは高齢者だけではなく児童も同じ。児童に関連する助成制度の詳細も知りたい・・・。

こちらでは、出産育児や児童の医療費に関する助成制度を解説します。

4-1.公的医療保険の範囲外を補填する助成制度

子供の出産に関して帝王切開をはじめとした「異常分娩」については、外科的手術も行われるため公的医療保険が適用されます。

しかし、正常分娩の場合、病気やケガとは言えないことを理由に適用外とされています。

そうはいっても、出産費用はそれなりにご家庭の負担となってしまいます。また、子が小さいうちは病気・ケガもしやすく医療費がかかります。

子に関連する出費を軽減し、安心してどのご家庭でも十分な医療を受けさせることを目的に、公的な助成制度が行われています。

4-2.出産育児一時金制度

出産育児一時金は、公的医療保険の被保険者が出産した時に受け取ることのできる一時金です(健康保険法第101条)。

この一時金は、一児につき42万円が支給されます。多胎児(双子以上)の場合なら「子の数×42万円」を受け取ることができます。

ただし、出産した医療機関が産科医療補償制度に加入していない場合、減額され40万4,000円の支給にとどまります。

出産育児一時金の条件としては次の通りです。

  • 公的医療保険に加入している
  • 妊娠4ヶ月(85日)以上で出産する場合

申請に関しては、まず出産を予定する医療機関の窓口で相談してから手続きに進みましょう。

4‐3.子供の医療費助成制度

子のための医療費助成に関しては、各地方自治体(市区町村)で実施されています。主に次のような助成が行われます。下表を参考にしてください。

医療費助成の対象年齢 助成内容
0歳~未就学児(6歳到達年度末)まで 医療機関へ通院・入院共に無料
小学1年生~中学3年生まで 通院なら医療機関への初診時500円を支払い再診時は無料、入院なら1回の入院につき10日目までは1日500円を支払い、11日目以降は無料

ただし、自治体ごとに助成内容や条件は大きく異なります。助成制度を利用したい場合には、まず市町村窓口(主に児童福祉課等が担当)へ相談しましょう。

4-4.ひとり親家庭助成制度

子供の医療費は、特に母子家庭または父子家庭では重い負担となります。

各市区町村では、母子家庭・父子家庭の医療費助成の条件を概ね次のように設定しています。

  • 夫または妻と死別または離別したひとり親家庭
  • 夫または妻が生死不明または重度障害状態にある家庭
  • 親から遺棄された等の状況にあり、その児童が18歳になった年の年度末まで扶養している人

助成方法は概ね次のように行われます。下表を参考にしてください。

助成方法 助成手順
現物給付 健康保険加入者ならば、医療機関窓口での医療費の一部負担金の支払いは不要で、健康保険組合等と市区町村との間で支払いのやりとりをします。
受領委任払い 国民健康保険加入者ならば、窓口での医療費の一部負担金の支払いは不要で、医療機関側と市区町村との間で支払いのやりとりをします。
償還払い 窓口でいったん医療費の一部負担金を支払った後、市区町村へ助成申請をし、市区町村から受給者の指定した口座へお金が振り込まれます。

ひとり親家庭の医療費助成を希望するならば、市区町村窓口(主に保険年金課等が担当)へ相談したうえで申請を行いましょう。

5.健康保険制度の充実

給与所得者が加入する健康保険は特に保障が手厚いと聞く。

健康保険で保障されている手当金についても詳細を知りたい・・・。

こちらでは、健康保険で保障されている各手当金について解説します。

5-1.健康保険組合の保険は保障が手厚い

前述したように給与所得者が加入する保険は健康保険(被用者保険)です。

この公的保険は、厚生労働省所管の公法人である全国健康保険協会または企業が設立する健康保険組合が保険者となります。

双方の保険者に共通しているのが、業務外で従業員が病気またはケガをした場合に支給される「傷病手当金」、従業員が出産した場合の「出産手当金」も充実している点です。

また、企業が設立する健康保険組合の中には、更に従業員側へ有利な手当金制度が利用できる場合や、本来ならば公的医療保険では適用されない差額ベッド代(有料の病室を利用した場合の費用)や、先進医療を保障する組合もあります。

会社員として業務に従事している方々は、一度ご自分が加入している健康保険組合の保障内容を確認してみましょう。

5-2.傷病手当金

傷病手当金とは、従業員が業務外で病気またはケガのため労務不能となった場合に受け取れるお金です。

支給額は「(支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷30日×2/3」で算出され、支給期間は、支給開始日から最長1年6ヶ月です。

支給条件は次の通りです。

  • 業務外の事由による病気・ケガの療養を目的とした休業
  • 仕事に就くことが不可能
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
  • 休業した期間、給与の支払いがない

申請方法は、ご自分の所属する事業所(主に人事課または総務課が担当)の指示に従い事業所を通して、保険者へ手続きを行うことになります。

5-3.出産手当金

出産手当金とは、従業員が出産した場合に受け取れるお金です。

支給額は「{支給開始日(一番最初に支給が開始された日)以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額}÷30×2/3」で算出されます。

支給条件は次の通りです。

  • 健康保険加入者
  • 出産日予定日の42日前(多胎妊娠:出産日以前の98日)~出産の翌日以後56日の範囲内に休んだ従業員

申請方法は、傷病手当金と同様、ご自分の所属する事業所(主に人事課または総務課が担当)の指示に従い事業所を通して、保険者へ手続きを行うことになります。

6.医療保険やがん保険を考える

これまでみてきた公的保険制度や助成制度は、児童・高齢者・低所得者に手厚い保障であることが理解できる。

一見すれば、公的な制度を利用する知識、そして機会があれば民間の保険はいらないようにも思える・・・・。

こちらでは、医療技術の進歩による医療体制の変化や、それでも民間の保険が必要なケースを解説します。

6-1.短期化する入院日数

医療機関での入院日数は、一般病床において年々減少傾向であり、次のような推移となっています(厚生労働省ホームページ「病院報告」を参照に作成)。

〇一般病床

調査年度 平均入院日数
1984年 39.7日
1990年 38.4日
1999年 27.2日
2005年 19.8日
2011年 17.9日
2016年 16.2日

2016年の時点でみれば、30年以上前の1984年の平均入院日数の半分以下にまで減少しています。

この傾向は今後も続くことが想定されています。そのため、差額ベッド代という有料の病室を使用しても、長期入院が避けられ、多額の出費を要するケースが少なくなると予想されます。

6-2.通常の医療行為なら保険診療で十分

我が国の公的医療保険が適用される治療は質が高く、通常の医療行為で十分な効果が認められるのであれば、わざわざ保険適用外となる最先端の自由診療を受けたり、先進医療を受けたりする必要はありません。

自由診療を受ける場合には、本来保険が適用される医療行為も全額自己負担となります。一方、先進医療の場合は、先進医療分が全額自己負担となります。

自由診療も先進医療も治療の内容によっては、数百万円を超える医療費に上る場合があり、とてもこのような費用を賄えなければ、保険診療による医療行為を受けることが無難です。

6-3.それでも民間の医療保険・がん保険が必要な場合

公的医療保険が充実している中、民間の医療保険やがん保険が必要になるのは次のようなケースです。

〇治療が必要でも貯蓄に不安がある

貯金に余裕があり、3割自己負担と高額療養費制度を使えば事足りるならば、無理に民間の保険へ加入する必要はありません。

しかし、公的医療保険でも高額な治療になってしまえば、前述した通り3割自己負担でも重い負担になります。

たとえ、高額療養費制度を活用しても事前申請が間に合わず、事後申請を行ってもお金が戻るまで1.2ヶ月程度かかり、貯金があまりない場合、その間の生活費をどうするか頭を抱えることになるでしょう。

そんな時に、民間の医療保険、がん保険へ加入していれば給付金が下り、そのお金で当面の生活費を賄うことは可能です。

受け取る給付金の使途は治療や入院の費用に限定されず、受取人が自由に使用することができます。

〇現在でも長期入院が必要なケースはある

一般病床の入院日数は概ね半月程度で退院が可能であるのものの、精神・療養・結核に関しての入院は依然として長期にわたります。

次の表を参考にしてください(厚生労働省ホームページ「病院報告」を参照に作成)。

各病床の平均入院日数

調査年度 精神病床 療養病床 結核病床
1996年 441.4日 152.6日 119.8日
2002年 363.7日 179.1日 88.0日
2008年 312.9日 176.6日 74.2日
2014年 281.2日 164.6日 66.7日
2016年 269.9日 152.2日 66.3日

いずれも長期の入院であることがおわかりになられると思います。

仮に有料の病室を利用しても、民間の医療保険では入院給付金の下りる場合がほとんどなので、長期入院を重視する保険商品に加入していれば、入院費を心配せずに治療に専念できます。

7.生命保険を考える

民間の医療保険・がん保険は必要となる場合があることはわかった。では死亡保険(生命保険)はどうだろう?

大黒柱である世帯主が亡くなるのは金銭的にも大きな打撃になるが・・・。

こちらでは死亡保険(生命保険)と、現在の公的な死亡保障の仕組み、日本人の習慣の変化について解説します。

7-1.変わりゆく日本人の葬儀・告別式

日本の伝統的な葬儀・告別式は、親類縁者はもちろんのこと故人の友人・知人、勤め先だった関係者の方々等を参列させ、盛大に行うことが習慣でした。

費用は遺族の貯蓄等で建て替え、その後、遺産分割やまとまった保険金を受け取ることで出費を賄うことが普通だったと言えます。

しかし、葬儀に関係する費用は年々減少傾向にあります。下表を参考にしてください(鎌倉新書「お葬式に関する全国調査」を参考に作成)。

調査年度 2013年 2014年 2015年
葬儀費用(平均) 1,303,628円 1,189,681円 1,171,111円

全国の葬儀費用の平均(飲食・返礼品費用・お布施除く)は、1,171,111円となっています。

火葬場使用料・式場使用料を含んでいても120万円を切り、飲食・返礼品費用等を含めれば200万円程度に収まる金額と言えます。

現在では、葬式に関係する費用は抑制される傾向にあり、ご家庭の貯蓄だけで十分賄われる水準にまで下がっています。

少なくとも、葬儀の費用として多額の死亡保険金をかけておく意義は薄まりつつあります。

7-2.会社から死亡退職金が下りる

もしも、勤務中に従業員が亡くなってしまった場合には、勤務先の事業所から死亡退職金も下りるはずです。

この死亡退職金とは、役員・従業員の死亡により、故人へ支給されるはずであった退職手当金・功労金その他これらに準ずる給与を、その遺族が受け取るお金のことです。

死亡退職金はもちろん「一律○○○○万円」と決まっているわけではなく、最終報酬月額や在任期間、功績等を算出して決定されます。

死亡退職金は、場合によってはかなり大きなお金になることがあり、家族の大黒柱を失っても、家族を当面養う分の生活費は確保されることでしょう。

7-3.保険金は「争続」の種?

死亡保険金は、実のところ故人(被相続人)の遺産である金融資産に該当しません。

死亡保険金は、保険加入した際に受取人を指定するので、受取人となる人物の固有の財産となります。

そのため、下りた保険金は個人の遺産(不動産資産や金融資産)とは別物とされます。

しかし、この場合に他の相続人が黙ってはいないでしょう。死亡保険金を巡り裁判沙汰になることも考えられます。

裁判所は、基本的に保険金は「特別受益(※)」に該当しないが、死亡保険金の受取人と他の相続人が著しく不公平になる場合には特別受益になると判示しています。

多額の死亡保険金は、相続の際に「争続」の原因ともなってしまうのです。

(※)特別受益:相続人の中で、特別に被相続人から利益を得ていた人がいる場合、その受けた利益を指します。民法ではこのような利益があるならば、相続人の公平な遺産分割のため、受益者の遺産取得分を減額することになります。

7-4.それでも生命保険が必要な場合

死亡保険(生命保険)が必要になってくるケースは次の通りです。

〇自営業者・自由業者の場合

死亡退職金が受け取れる方々は、あくまで事業所に勤務する従業員だけが該当します。

自営業者・自由業者で家族の大黒柱になっている人は、ご自分が亡くなれば、残された家族の生活が非常に困窮する事態も考えられます。

遺族年金という方法もあるものの厳格な条件があり、条件を満たさない場合は、遺族は当該年金を受け取れません。

そんな時に、保険会社の死亡保険(生命保険)に加入していれば、まとまった保険金を問題なく遺族が受け取れます。

〇働き盛りのまさかの事態の備えとして

会社員であっても、死亡保険(生命保険)に加入しておいた方が良いケースもあります。

例えば、働き盛りの40代・50代で亡くなった場合を想定すると、子も高校・大学進学前等、何かと教育資金にお金がかかる時期と重なる場合もあります。

また、まとまった死亡退職金額が受け取れるとは、とても思えない状況では、残された家族の生活がとても不安になることでしょう。

大黒柱であるあなたが亡くなったことで、子が進学を諦めることにつながるかもしれません。

前もって学資保険に加入していれば、教育資金に活用できますが、子が当該保険の年齢条件を超えていて加入できなかった場合は、やはり頼りになるのは死亡保険金です。

このようなケースでは、掛け捨てになっても構わないので定期保険に加入し、一定の時期にまさかの事態が生じた場合の備えを考えておきましょう。

8.まとめ

我が国では公的医療保険が充実しており、大抵の病気やケガはこの公的保険で十分に対応できます。

しかし、ケースによっては、民間の保険商品を頼りにする必要が出てきます。

まずはご自分や家庭の現状を踏まえ、民間の保険が必要かどうかを慎重に判断してから加入手続きを行いましょう。

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